ババン時評 若者の夢は「モノづくり」!

いま、日本の若者が“モノづくり”に興味を示しているという嬉しい話をしたいのだが、その前にこんな話を1つ。日刊工業新聞社時代のN先輩から手紙(エッセイ)をもらった。同社は文字通り工業系の業界紙だが、業界紙とはいえ中央省庁や日銀など政府系機関の、記者クラブ部にも専用デスクを置く新聞社で、『中央公論』の新聞社ランキングでは、授業員規模等で全国新聞社の6,7位にランキングされたこともある。

同時に、日刊新聞発行だけでなく、往時は技術系月刊誌10数誌、年間数百冊の工業・経営関連図書を刊行する出版の大手でもあった。しかし戦後の製造業復活から40年代に日本経済の流れが大きく変わり、“モノづくり”からサービス経済化などで“モノ離れ”が加速する中で、同社は社業を悪化させた。現在は縮小均衡を経て社業をしっかり建て直している。N先輩は、日刊工業の社業を通じて日本の製造業の流れを俯瞰している。

本論の、日本の若者が“モノづくり”に興味を示しているという嬉しい話は、第一生命による小中高生対象の「大人になったらなりたいもの」調査結果(3月発表)で、職種では医師・看護師・薬剤師といった医療関係の職種が挙げられたが、就職先では第1位が「会社員」であり、会社員としてやってみたい仕事の第1位に「科学技術・ものづくり」が挙げられたことだ。

第一生命経済研究所の主席研究員 的場康子さんは、小中高生が「科学技術・ものづくり」への挑戦を選んだことに注目し、日本はこれまで「ものづくり立国」として、技術の伝統を受け継いできたが、今は国際競争力が低下しつつあると言われており、これまで培ってきた「技術力」を子どもたちへどのように受け継がせていくのかが問われると言う。

コロナ禍で子どもたちの学びの環境も変わった。オンライン授業が全国的に展開され、学習コンテンツも充実している。その中で、オンライン社会科見学など、全国各地のものづくりの現場に リモートで見学できる機会も増えた。こうした体験を尊重し応援することが「ものづくり立国」日本の復活のカギになるのではないかと的場さんは提言する。

フランスの歴史学者エマニュエル・トッドさんは、自著『老人支配国家日本の危機』(文春新書)の中で、製造業軽視の水増しGDPで国力を図ることは間違いだという話のついでに、製造業の基盤を有している日本のコロナ対応を評価する一方、サービス産業化でマスク製造工場が1社もないフランスの情けなさを指摘している。

半導体の先駆者だった東芝の苦境は、日本の製造業の危険信号でもある。モノ離れ経済を無自覚に受け入れて製造業の弱体化を招いた日本の危機を自覚し、若者の「モノづくり」の夢を育てる具体的な政策を、国は本気で考えるべき時ではないか。(2020・3・27 山崎義雄)