「日本は核を持つべきである」―というのは、フランスの人口歴史学者 エマニュエル・トッド氏の持論である。『文藝春秋』 2022・5月号の、『日本核武装のすすめ』と題する同氏のインタビュー記事が話題になっている。同時掲載の、安倍晋三元首相の論稿『核共有の議論から逃げるな』他2本の関連記事も大分読まれているようだ。
トッド氏は、ウクライナ戦争の責任は米国とNATOにあるとし、ウクライナは、ロシアの侵攻以前からNATOの支援を受けて「武装化」していることから、すでに事実上のNATO加盟国であり、ウクライナ軍は米国の軍事衛星に支えられた軍隊であると言う。
また、「プーチンは狂っている」と言われるが、ロシアは一定の戦略のもとに動いている。その意味で予測可能だとする。また、ロシアの行動は「合理的」で「暴力的」だと称することができる、とも言う。それに対して予測不能なのがウクライナであり、米英に背中を押されてクリミアとドンバス地方のロシアからの奪還を目指したが、軍事力や人口規模からみて非合理的で無謀な試みだと言う。
そして日本は核を持つべきだと提言する。日本の核は地域の安定化にもつながると言い、「核シェアリング」論はナンセンスで、米国の「核の傘」も幻想だとする。近著『老人支配国家日本の危機』で、核の保有は、攻撃的なナショナリズムの表明でも、パワーゲームの中での力の誇示でもない。むしろパワーゲームの埒外に自らを置くことを可能にし、戦争を不可能にするものだと言っている。
トッド氏は、フランス嫌いで日本びいき。反米的でロシア寄りだ。EUのユーロ創設を主導したフランスを「フランスの政治家が犯した史上最悪の失敗」だと言っている。日本の歴史に詳しく日本大好きだ。米国の民主主義については、建国以来、原住民と黒人を除外した白人の民主主義だとする。
ロシアについては、前出『老人支配国家日本の危機』で、「対外政策は、理性的な戦略に基づいています。ウクライナ問題でも、シリア問題でも、安定した軍事力を背景に行動していますが、米国とは対照的に一定の抑制が効いていて、軍事大国ロシアの存在は、今日、世界の均衡に寄与しています。だからこそ、日米同盟を基軸にしつつも、日本は自らの安全保障をロシアとの連携で補完すべきなのです」と言っている。ロシア侵攻以前の発言ではあるが、今となってはさすがのトッド氏もこれは撤回ないし修正を加えたい発言ではないだろうか。
同時掲載の安倍氏論稿『核共有の議論から逃げるな』では、安部氏は、米国の「核の傘」について、日本に対する核攻撃は米国への核攻撃と見なし、米国は相手国への核攻撃を行うことになっているが、「報復するかどうかの判断はアメリカに委ねられている」と問題点も挙げている。しかし、きっちりと核共有がシステム化されているNATOの例などを日本も研究すべきだ。同時にトッド氏の勧める自前の核開発を真剣に議論すべきだろう。(2022・4・16 山崎義雄)