ババン時評 看板倒れの新しい資本主義

直近のツイッターにこう書き込んだ。『ばばん爺ダヨ。岸田首相の新資本主義。「最初は成長と配分」トカ言っていたのに、「配分」政策がないと批判されたら「最低賃金1000円」案が出てきたヨ。これって新資本主義かネ。その上「骨太」政策を頼りにし始めた。爺の「ババン時評」でも何度か批判したヨ。言葉による自縄自縛は岸田さんのために惜しいね』―。

当初、岸田首相は、「新しい資本主義」の狙いは「分配」重視だとして、立憲民主党の「成長」主張と対抗したが、そのうち「成長」と「分配」の両戦略にスタンスを変え、ここにきて「分配」欠落が指摘されるという迷走ぶりである。朝日新聞(6・1)は「新しい資本主義 分配重視の理念消えた」とし、『岸田首相はもう「新しい資本主義」の看板を下ろしてはどうか』とコキおろした。

すでに本欄では、『「新しい資本主義」の正体』(2022・11・10)で、首相のいう「成長と配分の好循環」は、新しくもなんともない資本主義の本道だと指摘した。さらに、『ババン時評 「新資本主義」は誇大広告』(3・9)では、当初、首相が掲げた「成長」政策、大学ファンドの運用、半導体立地促進、研究開発支援など、「分配」では、賃金格差の解消、「労働分配率」向上、子育て支援、コロナ最前線の看護や介護への報酬加算などは、従来からの継続的な政策課題だと指摘した。

何はともあれ、経済学理論は専門家に任せておけばいい。今、岸田内閣は、「新しい資本主義」と共に、毎年の経済・財政基本政策「骨太の方針」という2枚看板を掲げている。昨日(6月7日)発表された両者の計画・方針の「修正案」内容は、能力開発や・資産底上げなどによる「人への投資」が柱になるほか、科学技術開発や新興企業支援、デジタルなど、ほとんど方向を一にする。

今、「新しい資本主義」の最先端の理論は、「ステークホルダー資本主義」だ。これは、企業を取り巻くすべてのステークホルダー(利害関係者)に貢献することを目指す企業経営や経済のあり方を考えようという経済理論だ。しかしこの理論の中心である従業員重視や環境重視も、まったく新しい資本主義思想というわけではない。せいぜい「修正資本主義」とでも呼ぶべきものではないか。首相の「新しい資本主義」は「修正資本主義」以前だ。

おそらく首相の「新しい資本主義」の看板は、政権が交代すれば簡単に下ろされるだろう。これに「骨太方針」という似すぎて厄介な二枚看板を、この際、思い切って一本化するとか、自らの「新しい資本主義」政策を「骨太の方針」に任せるなど、堂々たる?理屈を構えて、方針転換を図った方が良いのではないか。(2022・6・8 山崎義雄)