ババン時評 「生活」を政争の具にするな

岸田首相は、記者会見(6・15)で、「断固として国民生活を守り抜く」と述べた。「断固として」立ち向かうテキは、いま、エネルギー関連から食料など生活必需品に広がっている物価値上がりである。首相は、現在の物価高は「ロシアによるもので、有事の価格高騰だ」とも述べた。プーチン露大統領のウクライナ侵攻が原因で世界に広がる物価高騰へのくやしさ?をにじませた発言だ。

なにしろわが国の物価は、長いこと上がらなかった。黒田東彦日銀総裁が就任以来、デフレ脱出を目指して「金融緩和政策」をとったが、消費者物価指数は今日までわずかにプラスに転じた程度で、効果のほどは今一つだった。9年来の「超金融緩和政策」で市中にジャブジャブとカネをつぎ込んだにもかかわらず、物価上昇2%の目標がいまだ達成されていないのだ。

その流れをいとも簡単に断ち切ったのがプーチンによるウクライナ戦争だ。しかも参院選(7・10)を前にして、である。問題は今後、このプーチン発の物価高にわが国がどう立ち向かうかということだが、各党の参院選向け公約が出そろい、それぞれの物価対策も明らかになってきた。しかし各党の個々の具体策は財源無視の大盤振る舞いで、その実現には疑問符のつくものが多い。

まず物価対策での与野党の違いは、与党が事業者向け対策を重視するのに対して野党は消費者支援を重視する姿勢である。与党の自民・公明は、ガソリン元売り業者への補助金支給や、賃上げした企業への税制優遇、資金繰り難の企業への融資など、事業者支援に重点を置く。これに対して野党の方は、消費減税を中心に消費者支援策を打ち上げた。

野党の主なところを見ると、立憲民主は、消費税の時限的な5%への引き下げ、賃貸住宅の家賃1万円補助、国民民主は一律10万円の「インフレ手当」支給、そして両党ともにガソリン税の暫定引き下げ。維新は、消費税を2年をめどに5パーセントに引き下げ、共産は、消費税を直ちに5パーセントに引き下げ、そして法人税率引き上げや富裕層への課税強化、などとなっている。

いずれも財源の裏付けを欠いたバラマキ政策である。消費税引き下げなど前例もなく実現可能性はほとんどないといっていい。第一、消費税に頼らないなら大幅歳入減をどう補填するのか。その説明もない消費税引き下げ公約は、公党としての信義を疑われるものではないか。おそらくどの政党も、まかり間違って政権の座に着いたら消費税引き下げなど二度と口にすることのない政策であろう。

唯一、立民は、「悪い物価高」をもたらす異次元の金融緩和策を見直す、といっている。現在、米の中央銀行であるFRBがインフレ(物価上昇)抑制のための利上げに走っている。しかし日銀は景気重視で従来の低金利政策を維持すると決めた(6・17)。ますますドル高円安が進行して、輸入物価が高騰する。目先の票集めにはならないだろうが、金融政策見直しは、プーチン発「悪い物価高」を退治するためにはぜひ必要な検討課題ではないか。(2022・6・21 山崎義雄)