ババン時評 人生はつかの間の戯言

人間、長生きするのも楽じゃないが、人生最後の大事業である死を乗り越えることも容易ではない。それなのに、「すべてつかの間の戯言」(のようなもの)だと言ったのは作家の佐藤愛子さん。近刊の『九十歳。何がめでたい』などもベストセラーになっているらしい。小冊子『円覚』(338号「春ひがん号」 円覚寺派宗務本庁 発行)に、こんな話が載っている。

それは、「週刊朝日」2月25日号の「マリコのゲストコレクション」で、作家・林真理子さんとの対談で、今年98歳になられるという佐藤愛子さんが語っている話だ(前出『円覚』所載「信心ことはじめ㊲」)。実は、当方は正直なところ、『九十歳。何がめでたい』も、その話の載る「週刊朝日」も読んでいないので、ここに書くのは気軽な「孫引き」話である。

佐藤さんいわく、「体が思うように動かなくなったら、我々凡人はもう死んでもいいわ、と受け入れる気になっていくんですよ。若いうちは、自分の好きなようにいろんなことができるからこの世にいたいわけだけど、何もできないのにいてもしょうがないでしょう。それで、少しずつ諦めていく。そうやってだんだん死を容認し、迎え入れる気になるんだと思うのよ、人間は。だから死ねるの。うまくできてるのよ。衰えなければ、なかなか死ぬ気になれないでしょう? そう考えると、死ぬのが嫌でなくなってきたの。98まで生きたらね。すべてつかの間の戯言ですよ」―。

そしてこんな話も。佐藤さんの2番目の夫は金持ちの息子で文学青年。皆にたかられてお金をふんだくられて、すってんてんどころか借金ダルマ。「君に借金を負わせるわけにはいかない」と言って形だけの離婚をしたと思っていたら、夫はさっさと次の相手と結婚したという話に、「あれはいっぱい食いましたね(笑)。私、わりとお人よしなんですよ。そうは見えないでしょうけど(笑)」と、今だから笑える体験を語った、という。

そこで脱線だが、当方の年寄仲間で、希代の好男子・野球の大谷翔平の話で盛り上がったついでに、彼が結婚するについては「悪い女につかまらなければいいが」という話になった。そして笑ったのは、昔は騙ますのは男で騙されるのは女と相場が決まっていて、「悪い男に騙されるな」というのが常とう句だったが、今どきは「悪い女に騙されるな」も通用する、あるいは主流になりつつある?という話で盛り上がった。そこへ行くと、イキな佐藤愛子さんも、実は男に騙される古い女?らしい。

まじめな話に戻すと、『円覚』誌は、最後に、お盆の供養、ご先祖様への報恩を薦めた上で、「ご自身の人生、生死のことにも思いを及ぼし、この先の人生をいかに意義あるものにするか、改めて考えてみたいものです。そして、『98まで生きたらね、すべてつかの間の戯言ですよ』といえたらいいなあと思います」と結んでいる。(2022・7・20 山崎義雄)