ババン時評 徴用工問題は厄介な置き土産

先ごろ行われた日韓外相会議(7月18日)では、最大の懸案である元徴用工問題で韓国側が「努力する」と表明したが、韓国・尹錫悦政権の支持率が低下する中で、前向きの政治判断を下して解決策を打ち出せるかどうかについては疑問視する声が強い。こうした効果の見通せない状況下で、今回、岸田首相は韓国・朴振外相との直接面談に応じた。これも、冷え切った日韓関係に配慮しての異例の決断であり、韓国という国は何かにつけて日本に気遣いをさせる国である。

報道によると、今回の日韓外相会議で朴氏は、元徴用工問題の解決に向かっては、韓国内の日本企業の資産売却以前に解決策を出したいとする一方で、日本側にも誠意ある対応を求めたと言われる。いま、韓国内では、政府主導で設立した官民協議会に、肝心の元徴用工側が、尹政権への不信を理由に不参加の立場を表明しているという。こうした韓国側の事情を踏まえて、朴氏が日本側に求める誠意ある対応というのは、日本政府の新たな謝罪と日本企業による賠償が必要だということである。これでは一歩も進まない。

できない相談であることを承知の上で言えば、慰安婦問題も徴用工問題も、1965年の日韓請求権協定に関係ないというならば、それらの問題を改めて交渉する前に、日韓協定に基づく計5億ドルに及ぶ日本から韓国への賠償金のうち、せめて「人への補償」関連の賠償金をそっくり日本に返済してからにするべきではないか。例えば、日本による韓国統治下における元韓国人の軍属や官吏などへの補償を、韓国提出の名簿等に基づいて個別に補償したいとする日本政府の提案を退けて、個人への補償は韓国政府が行う」として多額の現金を受け取りながら、個人にはほとんど支給しなかったという、あのカネである。

当時、問題視されていなかった慰安婦はともかく、徴用工は十分に補償の対象に入るべき人たちだった。それにもまして、日韓合意は、最終的・不可逆的に日韓の経済・補償問題を解決するものであったはずで、後年問題になった慰安婦問題も含めて、解決すべき責任は韓国側にある。さらに言えば、日本は、朝鮮半島に残した53億ドル分ともいわれる資産(相当部分を占領軍の米ソによって接収されたとはいうが)について、きれいに請求権を放棄している。

徴用工問題は前政権の厄介な置き土産である。このままでは尹政権における元徴用工問題の解決姿勢は、文在寅前政権となんら変わるところがない。朴外相は、9月の国連総会や11月のAPEC首脳会議などの機会を捉えて岸田首相と尹大統領との首脳会議を実現したいと語ったとも伝えられるが、前政権の対日姿勢と変わることのない状況では新たに尹大統領との首脳会議を急ぐ意味がない。今回の岸田首相と朴氏の面談以上に無意味な会談になるのではないか。ボールは韓国の手にある。韓国は、しっかりと内容のある一球を返すべきだろう。(2022・7・26 山崎義雄)