ババン時評 喧しい「国葬」への不協和音

安倍元首相が亡くなってわずか6日後(7・14)、岸田首相は、安倍氏の葬儀を国葬で行うと記者会見で表明した。決定と発表が拙速に過ぎたようでたちまち巷に反対の声が沸き上がり、その後マスコミ各社が世論調査を繰り返すたびに #国葬反対 の声が強まった。岸田首相も“説明不足”を陳謝して、さらに丁寧に説明して国民の理解を得たいとしているが、いまさら閣議決定をした国葬を撤回するわけにもいかないだろう。

反対の理由は、根拠となる確かな法律がないことや、多額の費用が掛かることなどだが、それだけではない。安倍晋三の評価が定まっていないとも指摘されるが、その背景には、問題の元統一教会安倍氏の関係や、生前からのモリカケ問題や桜を見る会疑惑などによる安倍氏個人への批判があろう。明恵夫人の活動も絡まって安倍氏のマイナスイメージが膨らみ、政治家としての業績とは無縁の“安倍嫌い”が災いしたと思われる。

まずは表向きの反対理由である国葬の法的根拠については、岸田首相は、「国の儀式は閣議決定」できるとする #内閣府設置法 を挙げている。それについては、法曹界などで異論が強いようだ。さらには、たとえそのような法的根拠があろうとも、世論の動向や国会が関与すべき重大問題だとする反対論もある。しかし国葬についての法律論争は吉田茂元首相の国葬の折りにもあったというから今に始まったことではない。

岸田首相は、国葬決定の理由として、①安倍氏は歴代最長の政権を担った、②外交、経済などで歴史に残る業績を残した、③世界各国から敬意と弔意を示されている、④民主主義の根幹である選挙運動中に銃撃された、ことを挙げる。この業績を真っ向否定できる論者はいないだろう。また、国葬の是非を問うなら、安倍晋三個人に関するイメージではなく、政治家・安倍晋三の業績をクールに評定すべきであろう。

仮に安倍氏の死がもう数年先だったら、安部氏への生々しい好悪感も鎮静し、中露や北朝鮮が激しく突出する戦後歴史の大きな転換点にある今、アジア太平洋重視の視点を説き、安保関連法を整備し、憲法改正を目指すなど、外交・防衛問題に注力した安倍氏の先見性と業績はより高く評価されただろう。今まさに、わが国の防衛力強化に対する国民の理解は高まっている。歴史的評価において安倍氏の評価は高まりこそすれ下落することはないだろう。

そして結論的に言えば、国葬について時の内閣が断を下すのが当然ではないか。この土壇場で国葬取りやめとなったら、内閣総辞職で政局も世情も混乱、国際社会では大恥をかいて国威失墜となり、テキに付け入るスキを与えることにもなる。ここは内閣決定に従って粛々と安倍氏国葬を行うべきではないだろうか。(2022・9・7 山崎義雄)