ババン時評 尖閣を守る戦力の抜本強化を

わが国の防衛力を5年以内に抜本強化するよう求める政府・有識者会議の報告書が発表された。報告書は、中国や北朝鮮を念頭に、「周辺国等が変則軌道や極超音速ミサイルを配備している」と指摘した上で、わが国が、自衛目的で相手のミサイル発射起点などを破壊する「反撃能力」を持つことは、相手の攻撃に対する「抑止力の維持・向上に不可欠だ」と明記した。

具体的には、国産のスタンド・オフ・ミサイル(相手の射程外からでも打てる射程の長いミサイル)の改良型や外国製のミサイルの購入により、今後5年を念頭にできる限り早期に十分な数量のミサイルを装備すべきだとしている。しかしこの程度の装備を急いでも中国や北朝鮮の野望を打ち砕くことは難しい。現実には、自衛隊員の員数も装備・兵器も弾薬も不足し、サイバー防御も司令塔機能も脆弱だと報告書が指摘している。

先ごろ米国のオースティン国防長官と中国の魏鳳和国防相が、カンボジアで会談(11・22)した折に、台湾問題についてオースティン氏が「一方的な現状変更には反対だ。情勢をさらに不安定化させる行動を取らないよう」にと求めたことに対して、魏氏は、「台湾問題は中米関係において超えてはならないレッドラインだ。わが国には祖国統一を断固として守る自信と能力がある」と答え、重ねて中米関係悪化の「責任は米側にあり、中国側にはない」として米国を非難したと報じられる。

それより前に、駐日米大使ラーム・エマニュエル氏は、ペロシ米下院議長が訪台した折に、中国が意識して日本の排他的経済水域弾道ミサイル5発を撃ち込んだことに対して、「与那国島は、台湾からわずか110㎞しか離れていない。習氏が日本をどう見ているか。彼が発したメッセージを、私が解説するまでもない」と言い、日本への抑止力強化を期待している。

中国の手口は「ウィキペディア」も認めているところである。すなわち、軍事的優位を確立してから軍事力を背景に国境線を画定するという中国の戦略の事例は、中ソ国境紛争などにも見られ、その前段階としての軍事的威圧は、東シナ海および南シナ海で現在も進行中である。2011年現在、中国人民解放軍の空軍力は、日本、韓国、在日在韓米軍を合計したものに匹敵し、インドを含むアジアで最強であり、その急激な近代化がアジアの軍拡を誘発している。このように尖閣問題の顕在化は、中国の軍事力が優位になってきた事がもたらしたものである。

また1968年に地下資源が発見された頃から、中国と台湾は領有権を主張しはじめた。例えば、1970年に刊行された中華人民共和国の社会科地図において南西諸島の部には、"尖閣諸島"と記載され、国境線も尖閣諸島と中国との間に引いてあった。しかし、1971年の版では、尖閣諸島は"釣魚台"と記載され、国境線も日本側に曲げられている。―と明快に断じている。要するに尖閣を守るのも戦力の抜本強化以外にない。今こそ冒頭に述べた、政府・有識者会議の報告書が提言する、わが国の防衛力を5年以内に抜本強化することが急がれよう。(2022・11・23 山崎義雄)