ババン時評 中国は台湾の前に尖閣を盗る

先に「ババン時評 尖閣を守る戦力の抜本強化」を書いたが、それは、台湾有事はすなわち尖閣有事だからである。『自衛隊幹部が語る台湾有事』(新潮新書)は、元陸上幕僚長・岩田清文 元海上幕僚長・武居智久 ・元空自補給本部長・尾上定正 同志社大学客員教授・兼原信克を著者とする23名の有識者による台湾有事の政策シミュレーションと座談会からなる一書である。

同書が示す4つのシナリオで最も深刻なのが、中国が台湾と同時に尖閣・与那国を占領するというシナリオである。それは、2023年秋頃から中国による台湾侵攻への準備が始まる。24年に入り台湾総統選に絡んで中国の挑発が激しくなる。3月、アメリカは台湾海峡危機を抑制するためにフィリピンと日本に支援を要請する。

日本は国家安全保障会議を開くなど対応があわただしくなる。3月末、中国は台湾海峡バシー海峡、与那国海峡を「軍事的」に封鎖する。中国による台湾への軍事侵攻が実行され、軍事衝突が台湾および日本の南西諸島で繰り広げられる。尖閣諸島与那国島はあっさり占拠され、台湾は抗しきれず中国陸軍部隊の上陸を許してしまう。

米国は台湾関係法に基づいて台湾防衛作戦に乗り出すことを政治決定し、日本政府に在日米軍基地の使用及び米軍部隊に対する後方支援を要請する。日本は最大限の支援を米軍に提供しようと努力する。中国は海上臨時警戒区(戦域)を先島諸島とフィリピン北部を含む広域に拡大し、結果的に尖閣・与那国が中国軍によって占領されてしまう。

 中国による台湾への本格的な着上陸作戦は、日米を巻き込む地域紛争に発展する。航空及び海上の激しい戦闘の結果、日米台は海空戦力に大きな被害を受ける。中国は大きな損失を出しながらも、与那国島尖閣諸島を占拠し、台湾本島の上陸に成功する。台湾本島の戦線は台湾軍の激しい抵抗に会い膠着するが、米軍の米機動部隊増強やサイバー攻撃によって、加我の優劣はしだいに逆転する。

5月、米国は中国本土への通常戦力での攻撃(ミサイル、海空基地)を決定。この段階で中国は、国連安全保障理事会に即時停戦の決議を提案。日本は、与那国島尖閣諸島を占拠されているが、米国政権としては、台湾問題の恒久的な解決が最優先となろう。台湾は解放されても尖閣・与那国は中国による占拠を許したままの停戦となる可能性がある。

第2部 座談会で語られるのは、事態の確認にこだわり対応の遅れにつながる「内閣法制局の呪縛」であり、さらに安保関係閣僚会合における問答と決断の遅さ、米国頼りで日本独自では何もできないという現実である。そして、アメリカに頼り切っていると米中間の停戦協定は尖閣与那国島を取られた状態で国境線が引かれて終わるという事態さえ起り得るということである。先に書いた「ババン時評 尖閣を守る戦力の抜本強化を」急ぐべきである。(2022・11・29 山崎義雄)