ババン時評 尖閣を盗られ自力奪還はムリ

このほど政府は、安保3文書を閣議決定し、「反撃能力」保有を明文化した。反撃能力で抑止力を高めることは必要だ。ところで先に「ババン時評 中国は台湾の前に尖閣を盗る」を書いたが、その折に引いた一書、『自衛隊幹部が語る台湾有事』(新潮新書)が示す最悪のシナリオでは、尖閣・与那国はあっさり盗られてしまう。

同書によると、中国による台湾侵攻への準備は2023年秋頃から始まる。そして翌24年3月末、台湾への軍事侵攻が実行される。中国は海上臨時警戒区(戦域)を先島諸島とフィリピン北部を含む広域に拡大し、航空及び海上の激しい戦闘の結果、日米台は海空戦力に大きな被害を受ける。中国は大きな損失を出しながらも、与那国島尖閣諸島を占拠し、台湾本島の上陸に成功する。しかし台湾本島の戦線は台湾軍の激しい抵抗に会い膠着する。

そして米軍の米機動部隊増強やサイバー攻撃によって、加我の優劣はしだいに逆転する。5月、米国は中国本土への通常戦力での攻撃(ミサイル、海空基地)を決定。この段階で中国は突如、国連安全保障理事会に即時停戦の決議を提案。しかし日本は、与那国島尖閣諸島を占拠されている。嘉手納基地、那覇基地もミサイル攻撃を受けて甚大な被害を受け、日本国内の重要インフラ(電力、銀行、携帯電話網)はサイバー攻撃でマヒ状態が頻発している。

だが米国政権としては、台湾問題の恒久的な解決が最優先となろう。台湾は解放されても尖閣・与那国は中国による占拠を許したままの停戦となる可能性が大である。そこで紹介したいのは同書が示す政府の動き、最悪シナリオ最後の首相官邸「南西方面武力攻撃事態」対策本部における協議の一端である。

防衛大臣:中国の停戦提案は、米国の中国本土攻撃計画の情報が漏れたか、米中が秘密交渉をしているのか、わが国としては停戦前に尖閣・与那国の奪還が必要だ。総理から直接、大統領に(米国による中国侵攻)作戦の決行を進言してもらうべきだ。外務大臣:米国としては、台湾問題の解決、米国の軍事的優位の定着が最優先。反撃作戦の決行はわが国としても更なる被害を招く。防衛大臣:反撃作戦なしに停戦となると、中国軍より我が自衛隊の海空戦力の損失がはるかに大きい。日本単独で奪回作戦を決行することは難しい。少しでも(和解交渉が)日本に有利になるよう米国には同盟国として英断を懇願するしかない―。

といった具合に、米国への疑心暗鬼まで含みながら、どこまでも米国頼みの情けないやり取りで協議が終わる。手もなく尖閣・与那国を盗られた後の米国頼みである。日本は「反撃能力」という先制攻撃力保持を打ち出したものの、北朝鮮ロケットが日本列島頭上を飛び越してからJアラートを出すような現状では先が思いやられる。(2022・12・17 山崎義雄)