ババン時評 黒田日銀金融政策の変節なぜ

なぜか日銀がいきなり金利の上昇にかじを切った。これまで欧米の中央銀行が一斉に利上げに走る中で、かたくなに異次元緩和の姿勢を崩さなかった黒田東彦日銀総裁20日の記者会見で長期金利の上限について、これまでの0.25%から0.5%への引き上げを発表した。市場はこれを日銀が実質的に金融引き締めに政策転換したと受け止めて円買いドル売りが加速した。

だが黒田総裁はこれを政策転換ではないと説明するのでことはややこしくなる。すなわち今回の金利上限拡大は「利上げの容認や金融引き締めを意図したものではない」と説明するが、これまで日銀の姿勢は、「変動幅の引き上げは金利の上昇すなわち金融引き締めにつながる」とするものだった。黒田氏も、9月の大阪市内での記者会見では、変動幅拡大は金融引き締めにつながり、「金融緩和の効果を阻害する」と語っていたが、今回は、市場機能の改善により、「金融緩和の効果をより安定的に発揮できる」と言うのだから、金融の専門家も簡単に飲み込めないサプライズになった。

ではなぜこの時期に黒田氏は変節とも取れる政策転換を打ち出したのか。黒田氏は、金融政策を正常化する「『出口戦略』についても、具体的に論じるのは時期尚早だ」と語っているが、黒田総裁の任期は来年4月までである。次期総裁候補もすでに何人か下馬評に挙がっている。黒田氏としては、次期総裁がどのような金融政策を採るか気にならないはずがない。

新総裁が黒田氏の金融緩和政策を踏襲してくれれば問題はないが、黒田氏の金融緩和路線に修正を加えて程よい利上げ路線に転換するとか、あるいは少々出遅れ感はあるが世界の金融引き締め路線に同調して金融引き締め政策に転換することになるなど、勘ぐれば黒田総裁の業績にキズが付く、メンツがつぶれる政策転換があっては困るとなると、煮え切らない説明をしながらも新総裁の新政策に軟着陸できる今回の金利変動幅拡大の路線転換の意図が見えてくる。

先に発表した「ババン時評 黒田総裁、値上げはノーです」(2022・6・11)は、黒田氏の、「家計の値上げ許容度は高まっている」との失言をマクラにした小論だが、ウクライナ戦争の勃発で、原油や原材料、穀物などの価格が高騰し、ガソリンや食料品などさまざまな製品やサービスが値上がりしたことについて、黒田総裁が、目下の物価上昇は賃金上昇や需要の増加という望ましいかたちによるものでないとして、金融緩和継続の姿勢を崩していないことを取り上げた。

そして小論の最後を「本当にそう考えるなら目下の物価上昇は悪い物価上昇で、行き過ぎればインフレ懸念も生じる。金融緩和一本やりの金融政策を見直すことが、黒田総裁最後の仕事になるのではないか」と締めた。たまたま今回の長期金利幅引き揚げは時宜にかなっており、黒田総裁最後の仕事になりそうだ。意図はどうあれけっこうな選択ではないか。(2022・12・24 山崎義雄)