「かつてはほとんど考えられなかった米中開戦は、いまや安全保障の世界では当たり前の議論となった」と強調するのは、米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)がこのほど発表した報告書である。時事通信によると、CSISは、中国が2026年に台湾に侵攻すると想定した24回の図上演習を行った結果、中国は侵攻に「失敗する」と結論付けた。ただ、中国と台湾だけでなく、米国、日本にも多くの死傷者や戦闘機・艦船の損失、基地の破壊等が発生するのは避けられないという。
CSIS報告書は、米中開戦の図上演習はほとんど一般公開されていないといっているが、たまたま当欄の「ババン時評」で引用した『自衛隊幹部が語る台湾有事』(新潮新書)の図上演習は迫力のある検証だ。同書で描く最悪のシナリオでは、2024年、中国は台湾侵攻に踏み切り、『中国は台湾の前に尖閣を盗る」(2022・11・29)と見る。作戦の一環として尖閣諸島と与那国島をあっさり占拠してしまう。
そして中国は、台湾本島の上陸にも成功するが、台湾軍の激しい抵抗に会い膠着し、米軍の米機動部隊増強やサイバー攻撃によって、加我の優劣はしだいに逆転する。しかし中国はこの段階で国連安保理に即時停戦の決議を提案。米国政権としては、台湾問題の恒久的な解決を最優先すると思われ、台湾は解放されても尖閣・与那国は中国による占拠を許したままの停戦となる可能性がある。結局日本は、「尖閣を盗られ自力奪還はムリ」(22・12・17)な状況に追い込まれる。
こうした状況の打開策として、リチャード・アーミテージ元米国務副長官は、早くからウクライナの教訓として日米同盟の刷新 緊急性を説き、指揮・兵器 連携強化を提言している(読売新聞2022・3・27)。すなわち、日米間における「連合作戦司令部」の設置と「連合能力開発」が急務だと指摘している。この2つによって、同盟は短期と長期で異なる軍事力を生み出すことができる。
短期的には連合作戦司令部を持つことで日米が一致して動けるようになる。手始めに台湾有事に責任を負う作戦指揮官を日米が任命すべきだと言う。危機時は指揮統制が複雑になるので、両国の司令官に戦時の権限を与え、中央で一緒に指揮に当たらせるべきであると言うのだ。また連合能力開発では、SM3迎撃ミサイルのように共同開発の例もあるが、日本に対艦ミサイルの既存技術があるのに米国は一から作り上げようとしている。米国に既存技術がある新型戦闘機について日本は独自開発を追求している。米国防戦略への日本の参画、日本の防衛力整備計画に対する米国の参画も不十分だとする。
以上のような、中長期的な日米安保協力の強化による中国侵攻の抑止力向上に加えて、現状の戦力対比においても台湾侵攻に賭ける中国に勝ち目がないとする明快な分析を中国は冷静に学ぶべきだ。(2023・1・14 山崎義雄)