ババン時評 ジョウゴのなげき

 

正月やら新年会やら、年の初めは酒を飲む機会が多い。当方は大の酒好きで、平成の最終ラウンド、今年の正月もまた飲み過ぎた。気になるのは持病の糖尿病である。ところがいつもの血液検査を受けたら、なんと前回より関連数値が改善していた。肝臓系も問題なかった。

俗に酒を飲めない人を下戸(げこ)と言い、飲める人を上戸(じょうご)という。戸は家を意味するので酒を飲めないほど貧しい家を下戸といい、心配なく酒を飲める豊かな家を上戸という、との説もある。医学的には、酒を飲める人と飲めない人の体質は、親からもらった遺伝子によって決まる。

飲ン兵衛は「うわばみ」とあきれられたり、「酒豪」とたてまつられたり、飲んだあげくに顔が赤くなったり青くなったりする表情や態度から「笑い上戸」「泣き上戸」などという表現もある。困り者に「アルハラ(アルコールハラスメント)」がある。アルハラは酒の上での嫌がらせを指す和製英語だが、こうした迷惑行為は昔からあった。「酒の飲めない奴は話にならん」などと言ったり、酒席で「オレの注ぐ酒は飲めンのか」などと強要するとか、酩酊状態で他人に絡むなど、古典的なアルハラである。そういう“単独犯”的なアルハラから、昨今は単独犯でも精神的ないじめに近い陰湿なアルハラとか、集団的な一気飲み強要で死亡者が出るなど、アルハラの内容が変化しているようだ。

話は飛ぶが、友人の奥方が、袋詰めの「きな粉」を買ってきて、ビンに詰め替えようとしてジョウゴ(漏斗=ろうと、とも言う)を使ったという。誰でも知っているジョウゴは、アサガオ形というかラッパ形の用具で、ビンなど比較的口の小さい容器に液体を注ぎ込むときに使う用具である。辞書では同音の「じょうご」で、「上戸」の横に「じょうご(ジョウゴ)」が載っている。ジョウゴは、飲ン兵衛の上戸のように酒を飲み込むからついた名だという。

そこで友人の奥方がジョウゴにきな粉を盛り込んだが、細い口に詰まって一向にビンの方に入って行かない。奥方は箸を一本使って突っつき廻してきな粉を落下させようと奮闘したという。ジョウゴが口を利いたら「オレは上戸だ。酒は飲めるがきな粉は勘弁してくれ」と言ったかもしれない。これはジョウゴにとってみればアルハラならぬパワハラだ。何事においても無理強いはいけない。(2019・2・2 山崎義雄)