ババン時評 中国は尖閣を盗り沖縄を狙う・上

 先に「ババン時評 中国は必ず尖閣を盗りにくる」を書いた(R6/2/3)。今回はその続きである。先に、中国が尖閣諸島を中国領と明記した領海法を制定したことを書いたが、中国は沖縄についても歴史的に見て中国のものだと考えている。

これについて、ウィキペディアが収録するジャーナリスト・岡田充氏の論考(Jun. 13, 2023)を借りると、中国共産党機関紙の人民日報が昨年6月4日、習近平党総書記(国家主席)の沖縄(琉球)に関する発言を報じ、波紋を広げているとする。それに関して、昨年7月の訪中を前にして玉城デニー沖縄県知事は、(人民日報は)沖縄との「交流発展に意欲を示された」と好意的に受け止めた。一方で、台湾に干渉する日本政府に、習氏が沖縄帰属問題で揺さぶりをかけたという見方もある。

人民日報は6月1日、習氏が国家文書館を視察した際の発言を紹介。習氏は時に足を止め、案内人に関連状況を尋ねたという。まず登場するのが尖閣諸島(中国名・釣魚島)。明朝が1534年に琉球に派遣した冊封正使、陳侃(ちんかん)の著書『使琉球録』について、案内人が「釣魚島とその付属諸島が中国版図に属することを記録した最も古い著述」と説明した。同紙が尖閣問題を取り上げたことは、領有権が古くから中国にあることをあらためて示す意図はあっただろう。

人民日報の記事は続いて琉球(沖縄)に移る。習氏は「私が福州(福建省省都)で働いていた頃、福州には琉球館と琉球墓があり、(中国と)琉球との往来の歴史が深いことを知った。当時『閩人(びんじん)三十六姓』(多くの姓の福州人)が琉球に行っている」と述べ、最後に「典籍や書籍の収集と整理の強化は、中国文明の継承と発展に重要」と強調したという。

岡田氏によると、習氏が福州にいたのは、福州市党委員会書記、副市長に就任した1990年頃だ。同市にある「琉球館」は、琉球王国出先機関であり、その存在に触れた習氏の発言には、明朝時代から中国を宗主国琉球王国を従属国とする「冊封関係」にあったことを示す意味がある。「閩(びん)」は現在の福建省を指す呼称で、「閩人三十六姓」とは琉球に渡った福建人を指す。これら閩人は、現在の那覇市久米町あたりに住んだことから、沖縄では彼らを「久米36姓」と呼ぶ。「36姓」は多くの姓をもつ閩人が移住したことを意味する。

習氏が共産党機関紙を通じて沖縄に言及するのは極めて異例なことだ。台湾問題をめぐり日中関係が悪化している現状を踏まえれば、琉球言及は中国の対日関係に関するサインであるのは間違いない。玉城知事は6月8日の記者会見で、「今後の交流発展に意欲を示されたものと受け止めている」と答えた。訪中歓迎のサインと読み解くのは、無邪気にすぎる「我田引水」的な解釈ではないか、と岡田氏は言う。同感だ。(山崎義雄 R6・2・6)