ババン時評 不遜で不誠実で頑なな中国

林外相が訪中し、秦剛韓国外相と4時間近く会談した(4・2)。複数の大物とも会談したが、いずれも実りある会談とはならなかった。日本の外相訪中は3年3か月ぶりだというが、時期も悪かった。先ごろ、習近平が自ら、政治局員をはじめ全国民が習近平の教える「新時代の中国の特色ある社会主義」をしっかりと学び直せと下知した。習近平個人への権力集中と独裁体制強化の下で、取り巻きの大幹部も迂闊な物言いは命取りになる。林外相に色よい返事などできるはずがない。

今年1月には、中国の新聞記者に対する資格試験制度の7月からの導入が発表された。「習近平の新時代の中国の特色ある社会主義思想」の理解を進めるために、5年ごとの試験を実施し、合格者に「新聞記者証」を交付するという。先ごろは、中国共産党の機関紙『人民日報』の記事(3・30)の中で、「習近平同志を核心とする党中央」とするべき部分で「習近平」の3文字が抜けていたことで、あわてて新聞を回収する騒ぎになった。関係者が処分される可能性があると香港紙『明報』が報じたという。中国政界・マスコミ界は習近平の機嫌をそこねることを恐れてピリピリしているようだ。

今回の日中外相会談では、両国関係の安定化に向け、首脳や外相レベルでの緊密な意思疎通を継続することで一致したとされるが、いっこうに中国の本気度が見えない。それどころか、会談時に中国海警船が過去最長の80時間にわたって尖閣諸島の領海内にとどまったという。このように中国という国は不遜で不誠実で頑なで、しばしば交渉相手を威嚇する。

今回の会談でも、中国当局が先月、アステラス製薬社員の日本人男性を「反スパイ法」違反容疑で拘束したことに林外相が強く抗議し、早期解放を求めたのに対し、秦氏は「法に従って処理する」とニベもなく答えた。スパイ活動と判断するのは中国当局次第で、こちらには容疑事実の説明もない。不誠実であり明らかな人権侵害だ。尖閣諸島を含む東シナ海南シナ海の状況に深刻な懸念を示して「台湾海峡の平和と安定の重要性」を林氏が強調したのに対しては、秦氏は、「(日本は)干渉してはならない」と突っぱねた。

だとすれば、日本は主張すべきことを繰り返し主張しながらも中国による主権侵害に対抗する防衛力の強化を進めるしかない。たまたま読売新聞(4・3)の1面で、トップの日中外相会談記事に続いて、わが国がアジアの同志国の軍を支援する新たな政策に乗り出すという記事が載っており、日本の取るべき外交と防衛の基本的なスタンスを象徴的に示していて興味深かった。この新政策は同志国の軍の能力強化と地域の安定化を目指す「OSA」(政府安全保障能力強化支援)で、第1弾は、南シナ海岩礁の埋め立てや軍事拠点の建設など、中国による一方的な現状変更の脅威に直面しているフィリピンをはじめ、4か国を対象に支援する方向で調整しているという。習近平の中国は、今、プーチン大統領のロシアが周辺国と世界の信頼を失って孤立を深めていることを重く受け止めて学ぶべきだ。(2023・4・6 山崎義雄)