ババン時評 スマホなければただのバカ

コロナ自粛でこの3年間とんと宴会がなかったが、ようやく自粛緩和の状況になってきて、3月のある日、小さな美術団体の総会・懇親会が開かれた。私の対面にお客様の立民党代議士で高名なS先生、その横に独創的な部品開発を手掛ける中小企業のI社長などが陣取り、しばしの懇談を楽しんだ。たまたま話がデジタル・AI(人工知能)に及び、I社長がデジタル・AIに頼るだけでは独創的なものは生まれないと言い、S先生は、現代人はデジタルに頼りすぎ、スマホを手放した途端にバカになると応じて盛り上がった。かく言う当方も教科書の行きすぎとも見えるデジタル傾斜などに異論を発してきた。

たまたまNHK WEBニュースが、膨大な情報を取り込んで学習し、まるで人間のように会話したり文章を書く「チャットGPT」を使った小学生の作文例を報じた(4・11)。「チャットGPT」については、ビル・ゲイツ氏の「インターネットや携帯電話の発明に並ぶ革命だ」との驚嘆の声や、イーロン・マスク氏の「恐ろしくすごい。危険なほど強力なAIが現実味を帯びてきた」との警戒の声など、賛否両論があるとしながらも、我々は「“異次元”のAI」時代を迎えたと報じている。

昨年暮れに発表されたばかりのAIの「チャットGPT」だが、今や燎原の火のごとく(とは古い言い回しか?)世界を席巻し、学術論文や小説まで創作する例が発表されている。だが近時、当方が最も驚いたのが、この小学5年生の作文だ。この作文は、原稿用紙に小学生らしい手書き文字による「ハリーポッターと不死鳥の騎士団」と題する23行ほどの読書感想文で、担任の教師が花丸つきで「すごいね!」と感想を記している。確かによくできた感想文だ。

それだけに、担任教師が指摘するように作文中には、「読み進めるうちに、物語に引き込まれ、最後まで手放せませんでした」とか「主人公を守ろうとする姿勢に共感し、その命運に思わず涙しました」といった小学生らしからぬ巧みな表現があり、気になった教師が小学生に聞いたところ、「チャットGPT」に代筆してもらったことが分かったという。だが教師は、「書き写すだけでも学びにはなりますし、新しいものを意欲的に取り込んだという姿勢は評価しています」と大らかにコメントしている。

この小学生が自力で「チャットGPT」を操作したとすれば驚きだ。もし「チャットGPT」が得意の対話で、依頼主の年齢、性別、読書傾向、国語力などの属性を聞き出してから作文に取りかかったとすれば、先生にバレない作文を代筆したであろう。しかしそれでこの小学生の国語力が増すとは思えない。これからの世の中、冒頭の立民党S先生の「スマホなければただのバカ」はきつすぎるが、「スマホなければただの人」が増えることは間違いない。人間はこれからAIとどう付き合っていけばいいのか。避けられない命題に直面していることは確かである。(2023・4・13 山崎義雄)