ババン時評 空回りの少子化・子育て対策

岸田首相が掲げる「異次元の少子化対策」の試案が発表された(3・31)。子育て家庭への経済的支援の強化を柱とした網羅的な政策が列挙されている。従来路線の延長に見えてどこが「異次元」なのか分からないが、児童手当の所得制限を無くして高校まで児童手当を支給するなど、大きな支出が見込まれる政策が並ぶ一方で財源の議論はこれからだ。

試案では、大きな政策課題として、若い世代の結婚・子育ての将来展望が描けないことなどを挙げ、これを克服するためには若い世代の所得を増やすこと、社会全体の構造・意識を変えるなどの対策が必要だとしている。実はこの課題こそが本当の少子化対策なのだが、過去30年間の少子化対策はこれに取り組まず「少子化対策育児支援金の加増」でやってきた。

こうした政府の考え方は一貫して変わらず、少子化対策と言いながら、対策の趣旨は「仕事と子育ての両立の負担感や子育ての負担感を緩和・除去し、安心して子育てができるような様々な環境整備を進め、家庭や子育てに夢や希望を持つことができるような社会にしようとすることである」(1999年「少子化対策推進基本方針」)としているのである。これでは幸いにも結婚できて子供ができた世帯に手厚く報いるだけの政策で、結婚したくてもできない若者世代は置いてきぼりで、真の少子化対策にはなり得ない。対策もお粗末で若い世代の所得を増やす算段も、産業界や企業にお願いするだけでは国の政策とは言えまい。

たまたま慶応大教授の駒村康平氏が、『日本経済のバブル崩壊や国際的な価格競争の中で、非正規雇用の増加と賃金抑制の流れが続き、中間層が壊れていった。今の日本は、働き盛りで、結婚するタイミングの若者たちに「向かい風」が集中している。それを放置し続けたことが未婚率の上昇、出生率の低下につながっている』と言っている(読売新聞2・26)。

すでに当欄でも『「異次元の少子化対策」に異議』(1・9)で、少子化問題は、若者が人生や家庭や仕事を一体的に考える問題で、国もそういう側面で支援するカネの使い方を考え、そういう視点で結婚適齢期の若者層に、結婚や子作りに目を向けさせ、考えさせ、踏み切らせる政策を考えなければ「異次元の少子化対策」にならないのではないかと疑義を呈した。

大きな問題は言うまでもなく政策実施の裏付けとなる財源だが、この度の少子化対策では、年金・医療・介護などの社会保険料から流用するとか、社会保険料に上乗せして徴収する案も浮上しているというが、社会保障に犠牲を強いるのは見当違いだろう。政府・与党が痛みを受ける覚悟で税制改革に取り組み、まずは企業や高所得者からの税収増を図り、次いで消費税で賄うのが国民全体で少子化政策に取り組む正しい道ではないか。(2023・4・1 山崎義雄)