ババン時評 「異次元の少子化対策」に異議

異次元とは、従来にない、とでもいう意味だろうが、岸田首相は、新年早々に「異次元の少子化対策」構想を打ち出した。そのために小倉少子化相を座長とする関係省庁会議を設置し、①児童手当など経済的支援の強化、②学童保育や病児保育、産後ケアなどの支援拡充、③働き方改革の推進、の3テーマについて検討し、3月末をめどに具体策のたたき台をとりまとめるという。以上の3テーマが、従来にない施策だとは思えないが、それで出生率の向上がみられるのだろうか。

おさらいだが、出生率 には2通りあり、単なる「出生率」はその年に生まれた人口1,000人あたりの出生数で、「合計特殊出生率」は、15歳~49歳の女性ひとりあたりの生涯出産人数だ。どちらも近年、わが国の「実績」は思わしくない。世界銀行のデータによれば、2022年9月現在の合計特殊出生率世界ランキングでは、208カ国中で日本は191位である。これは恐るべき事実で、上念司氏が著書『財務省と大新聞が隠す本当は世界一の日本経済』の中で示した仮説、人口減少がこのまま進めば日本の人口は西暦2700年頃にたった1人になるという推計を笑っていられなくなる。

こうした出生率の減少には、生活様式の変化や価値観の多様化が挙げられる。極端に言えば、戦後のベビーブームのように、貧しい生活の中でも結婚して子供を持つことが当然視されていた頃とは大違いで、結婚観の多様化があり、晩婚化・未婚化が常態化し、結婚しても子どもを持つ意味を感じなかったり拒否する夫婦やカップルまで現れる時代になった。

岸田内閣の「異次元の少子化対策」では、現行の児童手当、子ども1人につき1万~1万5000円の引揚げや給付対象の拡大、自民党案の第2子に月3万円、第3子以降に月6万円支給なども検討されるようだ。岸田首相が支持した3つの検討課題も含めて、いずれも鼻先にカネというエサをぶら下げて釣る算段だ。早速橋下徹氏などは大学までの学費をタダにしろと言っている。しかしそれで若者層がじゃあ結婚しよう、子どもを作ろうということになるだろうか。カネ釣り作戦も間接的には結婚や子づくりへの誘因にはなろうが、その有効性には疑問がある。

さらに問題なのは、他の経済・財政・金融などの多分にテクニカルな政策課題と違って、少子化問題は、人生や家庭や仕事を一体的に考えるという意味で、多分に人間的・倫理的・心理的な側面が強い。カネの使い方もそういう側面で支援する使い方を考え、そういう視点で結婚適齢期の若者層に、結婚や子作りに目を向けさせ、考えさせ、踏み切らせる方策・政策・対策を考えなければ「異次元の少子化対策」にならないのではないか。関係省庁会議は、有識者や子育て世帯、若者らへのヒアリングも行なうというが、多様な意見を取り入れて「異次元対策」を打ち出してほしいものだ。(2023・1・8 山崎義雄)