ババン時評 ふるさとで働き結婚する幸せを

迂闊にも忘れていた。岸田首相の打ち出した異次元の少子化対策はどこかおかしいと思いながら、増田寛也・元総務相(それ以前は岩手県知事で、現在は日本郵政社長)らが10年前に発表した「増田レポート」を忘れていた。レポートは少子化の要因の一つに若い女性が東京圏に流出する動きを挙げ、これに歯止めをかけるには地方で若い女性が魅力を感じる雇用の場を確保していく必要があると提言した。

その「増田レポート」の公表から10経ったとして読売新聞が(6・7)が「人口減 地方雇用創出が急務」「格差是正で女性定着カギ」などと報じた。東京圏への若い世代の流入はコロナで少し収まったとはとはいえ、現在まで一貫して続き、しかも男性より女性の方が3割がた多いようで、これでは地方における婚姻数や出生数が増えることはあり得ない。

読売の記事には増田氏がコメントを寄せており、「隣の自治体同士で人口の奪い合いのようなことも起こった」と語り、「人口減少は国や県単位で考える問題だ。自治体間の横断的な取り組みに軸足を移すべきだ」と提言している。たしかにその通りで、私も、少子化対策に力を入れた都市が近隣都市からの子育て家族の誘致で成果を上げた例などが報じられると、これでは限られたピザの奪い合いのようで、けっして国全体の少子化対策にはなり得ないだろうと大きな矛盾を感じていた。

少子化問題については、当欄でも直近では、『「異次元の少子化対策」に異議』(2023・1・8)で、岸田首相が2023年の年明け早々に打ち出した「異次元の少子化対策」構想について、①児童手当など経済的支援の強化、②学童保育や病児保育、産後ケアなどの支援拡充、③働き方改革の推進、の3本柱が従来にない「異次元」の課題だとは思えないとして、結婚適齢期の若者層に、結婚や子づくりに目を向けさせ、考えさせ、踏み切らせる施策を考えなければ異次元の少子化対策にならないと注文をつけた。

さらに「空回りの少子化・子育て対策」(2023・4・17)では、3月末に発表された「異次元の少子化対策」試案を取り上げた。試案では、大きな政策課題として若い世代の結婚・子育ての将来展望を描けないことなどを挙げ、若い世代の所得を増やすこと、社会全体の構造・意識を変えることなどの対策が必要だとしている。しかし現実には、わが国が少子化問題に目覚めて以来30年間の取り組みは「少子化対策育児支援金の加増」が柱で今回の対策もその延長線上にある。

これでは幸いにも結婚できて子供ができた世帯に手厚く報いるだけの政策になり、結婚したくてもできない若者世代は置いてきぼりだ。コロナ下で在宅勤務、リモート・ワークの有効性を学んだことなども活かして、地方における勤務制度を国や企業が考え直し、若者は故郷で働き結婚する幸せを求め、「増田レポート」の提言する若者の東京圏への転入に歯止めをかけるなど、「異次元」の少子化対策を打ち出すべきではないか。(2023・6・8 山崎義雄)