ババン時評 LGBT法よどこへ行く

今国会で、性的少数者LGBT)への理解増進をはかる「LGBT理解増進法」が成立した。自民・公明に維新・国民の4党の協力で成立したが、これほど評判の悪い法律も珍しいのではないか。同法の成立に際しては、衆議院に続いて参議院でも複数の自民党議員が同法に異議ありとして退席し投票を棄権した。

同法の目的・基本理念は、①性的指向ジェンダーアイデンティティの多様性に寛容な社会の実現、②性的指向などを理由とする不当な差別はあってはならない、というもので、具体的には国が基本計画をまとめ、自治体や事業者、学校などが知識普及や相談機会を設けるというもの。ジェンダーアイデンティティは最後になって挿入された用語で、ほぼ性自認に近く、同法の理念をわかりにくくした。

成立の片棒を担いだ維新 馬場代表は、「維新 国民の案がほぼ100%生かされ喜ばしい。多様性が認められて、少数派の皆さんと多数派の皆さんの相互理解が深まって暮らせる社会をつくっていきたい」と語った。公明 石井幹事長も「最終的に成立して大変よかった。この法律が、多様性を認め合う社会に進む第一歩となり、政府の具体的な対応を進める中で、理解が進むことに期待したい」と語ったが、期待通りの展開をみせるかどうか予断を許さない。

反対に回った立民 泉代表は、当初の議員連盟案の「当事者とともに考えて作った法案が通らずに、当事者を無視した永田町の妥協案で、何のための法律なのか。強く抗議したい」と批判している。さらに、肝心の差別禁止を求めてきた当事者などの団体の反応は複雑である。全国102の団体でつくる「LGBT法連合会」の時枝穂代表理事は、修正によって盛り込まれた、「すべての国民が安心して生活できることとなるよう留意する」という文言が「LGBTQの存在がまるで国民の安心を脅かすかのように明記され非常に憤りを感じる」と強く批判した。

新聞論調をみても、珍しくも足並みをそろえて批判に回った。とりわけ厳しいのは読売新聞(6・18社説)で、「LGBT法成立 社会の混乱どう防ぐのか」と題して、大要「数々の懸念は何一つ払拭されぬまま、必要性の疑わしい法律が制定されてしまった。政府は、早急に社会の混乱を防ぐ手立てを講じるべきだとする。

さらに同紙は言う。先進7か国(G7)で、LGBTに特化した法律を持つ国はない。LGBT法は、国際社会でも極めて特異な立法といえる。そもそも日本は最高法規で「法の下の平等」を定めている。LGBTに特化して差別禁止を定める理由は、見当たらない。にもかかわらず、衆参両院ともに3時間前後の審議で決着が図られたのは、岸田首相が自民党に強く指示したためだとされる」と主張する。ここまで言われてはLGBT法も立つ瀬がない。LGBT法よどこへ行く。(2023・6・20 山崎義雄)