ババン時評 「戦争回避」と「軍拡・改憲」

「戦争回避が政治の役割!」「大軍拡・改憲に反対します」という大きな活字が躍る1頁の意見広告が朝日、読売など3紙に載った(5・3)。冒頭に「現在も続くロシアのウクライナ侵攻は、他国への侵略を禁じた国連憲章に基づく国際秩序を大きく揺るがしました。いったん始まった戦争を終結させることがいかに困難かを、私たちは目の当たりにしています」とある。

「戦争回避が政治の役割!」とする主張には誰も反対しないだろう。だからといって「大軍拡・改憲に反対します」とはならない。そして、「いったん始まった戦争を終結させることがいかに困難か」も多くの人が感じていることではあるが、だからといって戦争を起こす恐れのある「大軍拡・改憲に反対します」という結論にはならないだろう。

この意見広告は4本の柱を立てている。第1が「大軍拡が命と暮らしを脅かす」というもの。しかし軍拡賛成派も「国民の命と暮らしを守る」と標榜する。第2が「平和憲法をもつ日本ができること」というもので「平和外交」を提唱する。しかし武力を背景としない平和外交も国連憲章さえもロシアに通用しないのが現実である。第3が「戦争をできる国にさせない」というもの。集団的自衛権は同盟国の戦争に巻き込まれるというが、同盟関係を脱して「戦争できない国」になれというのは現実離れしている。

第4は「非戦の未来を選ぶ」で、「言わない意見は世論になりません。憲法9条も平和も民主主義も、主権者の不断の努力によってこそ守り、実現させることができます。私たちは、戦争しない、戦争させない、非戦の未来を選び続けます」という。確かに非戦の未来を選びたいというのは多くの国民の願いでもあり、言論の自由がある今の日本では、自由な意見で世論が形成される。

ただしその自由な意見による世論形成は今、軍備の増強と同盟強化容認の方向に動きつつある。岸田政権は安保3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)を決定し、先の衆参5補欠選挙統一地方選でも「国民の命と暮らしを守る」と強調した。国会で維新の三木圭恵氏は、安保3文書について「踏み込みが足りない」として、さらなる防衛力強化を訴え憲法9条への自衛隊明記も求めた。国民の前原誠司氏は、反撃能力を持つことが憲法違反だという主張は本末転倒、自国ではなく米国に頼れというのか」と強調した(読売4・5)。

今こそ国民的な軍拡と憲法論議を進めるべきだろう。すでに「反撃能力」の保持が容認されている。安保3文書の成立も大きな意義がある。今やわが国はウクライナ戦争の狂気や中国、北朝鮮の本心を隠さない恫喝に直面している。この現実を見据えながら、本気で「戦争回避」と「軍拡・改憲」という一見矛盾する命題解決の正しい解を求めなければならないだろう。(2023・5・5 山崎義雄)