ババン時評 テレビ報道の政治的公平性

理屈や言葉に最も鋭敏でなければならないはずの国会議員が、つまらない失言で世の非難を浴びるのはなぜなのだろう。直近では、立憲民主党の論客 小西洋之参院議員が、衆院憲法審査会の週1回開催が定着していることについて、「毎週開催は憲法のことなんか考えないサルがやること、野蛮だ」などと批判した。小西氏は参院憲法審の幹事懇談会後の記者会見で「オフレコで語ったこと」で人とサルを一緒にしたのはまずかったと自身のツイッターで釈明した。

その小西氏が参院外交防衛委員会(3・17)で放送法の「政治的公平」の解釈について質問した。これに総務省の山碕良志審議官が「従来の解釈は何ら変更がない」と返した。従来の解釈とは、「一つの番組ではなく、一つ一つの番組の集合体である番組全体を見てバランスが取れたものかどうかを判断する」というもの。ところがこの総務省解釈に、安倍晋三政権の2015年当時、総務相だった高市早苗氏が「補充的な説明」を付け加えていた。

すなわち高石氏は「一つの番組でも、極端な場合は政治的公平を確保しているとは認められない」と答弁し、翌16年には、違反を繰り返した場合には電波停止を命じる可能性にも言及しているのだ。この高石発言が、ほとんど総務省幹部による事前レクに基づくものであることが総務省文書に記録されていたわけだが、その内容を今回、高石氏が捏造だと真っ向から否定した。そこで野党の執拗な追及を受けた高石氏が、「私の答弁が信用できないんだったら、もう質問しないでください」と参院予算委(4・14)で発言した。

これが問題となり、小西氏は、「憲法、議院内閣制の根幹に反する発言だ」として、高市氏に発言の撤回と謝罪を求めた。自民の末松信介参院予算委員長まで「質問権を揶揄・否定するのは本当に大きな間違いだ」とコメントした。これに対して、ようやく高市氏は、「国会審議に迷惑をかけることは本意ではない。『信用できないなら質問しないで』と言ったことだけは撤回する」とシブシブ部分的撤回?に応じた。

なぜここまで気色ばんで事前レクを否定したのか。思うに「自分流」の見解、自前の主張だとする能力誇示なのかもしれないが、事前のレクを受け、安倍首相の意向まで確認するよう総務省幹部に指示した上での発言であることが克明に記録されているのであるから、高石氏にとってはいかにも分が悪い。あっさり認めれば、総務省も困らせず、自分も「クビをかける」とか「質問するな」とか新たな失言をしなくても済んだはずだ。

問題は放送法における政治的公平性だ。放送法の前提も「表現の自由」を守ることだろうが、テレビ局に一般概念の表現の自由を振りかざされてはたまらない。小生も安部氏国葬の折りに、テレビ朝日の報道番組でメインキャスターが自ら街に出て5~6人の国葬反対の声だけを拾い、スタジオに戻って報道を続けたのを見て驚いたことがある。政治的に偏向した姿勢で情報を取ったり加工したりすることで国民をミスリードすることは許されないだろう。(2023・5・12 山崎義雄)