ババン時評 成功するか中国軍人強化法

中国の習近平国家主席が「社会を挙げて軍人を尊敬せよ」と号令をかけ、将兵の地位向上のために、給与引き上げなどの待遇改善を行う新法を制定したという。目的は、軍の士気向上や優秀な人材確保だが、逆に言えば、習主席の悩みがそこにあるということだ。なにしろシナ海を制覇し、近々に台湾を盗ろうと目論む習主席にとって軍内部の弱体化は看過できない現実だ。

その新法「軍人地位・権益保障法」の目的は、「軍人に使命を果たすように励まし、国防の現代化を進める」ことであり、そのために、「軍人は社会全体が尊敬する職業だ」と持ち上げ、「軍人家庭の生活水準を保障する」と明記して、軍の士気向上や優秀な人材確保を図ろうというわけだ。特に「作戦に参加したり、厳しい環境の遠隔地や特殊任務に関わったりする軍人を優遇する」のも、シナ海制覇と台湾進攻作戦が習主席の頭にあるからだ。

新法制定の背景には、少子化が進んで軍人へのなり手が減少していることがある。その遠因は1975に始まった中国の人口抑制策「一人っ子政策」である。その後、近年に至って中国の少子高齢化が大問題となり、習主席は、2002年に条件付きで第2子を、さらに第3子まで認めたあげく、ついに2015年、「一人っ子政策」を廃止した。

一人っ子政策」が始まった当時、私は小雑誌に書いたり他でしゃべったりして、これからの中国軍は弱体化すると公言した。一人っ子では甘やかされ過保護で育てられることになり、彼らが軍人になれば軍全体の士気低下により、早晩、中国軍は弱体化すると思ったからである。しかしその後、中国軍人の劣化説?は聞かれず、説を裏付ける本格的な実証実験(戦争)も行われず、習政権になってからは、軍人劣化を補って余りある近代兵器の装備を進めて今日に至った。

実証実験(戦争)といえば、日清戦争(明治27~28年)当時、世界に冠たる中国北洋艦隊を日本の連合艦隊が撃破して欧州列強を瞠目させた。これで中国の潜在力を「眠れる獅子」と恐れていた西欧列強の恐怖心が消えて、中国の分捕り合戦と植民地化を始めた。これが、日本に対して中国が恨みを持つ大きな一因になったと言えよう。

当時、黄海海戦で敗れた中国北洋艦隊の隊員たちはアヘンでダメになっていたと言われていたが、近年になってその定説?は否定された。また私は、誰だったか著名な日本の将軍が、北洋艦隊旗艦(だったか)の艦上にズラッと洗濯物が干してあるのを見て、戦えば勝てると確信したという話を何かで読んだ覚えがあるが、記憶は定かでない。

ともあれ新法制定で、はたして習主席が望むように、中国共産軍に有為の若者がワンさと集まり、体力・気力に優れた軍人集団となるのかどうかは予断を許さない。優秀な軍人になったかどうかの実証実験だけは、やってもらいたくないものだ。(2021・3・4 山崎義雄)