ババン時評 なぜ「寅さん」がもてるのか

あっという間に令和2年になった。いつも正月にはいい映画、できればシリアスな洋画を観たいと思っているが、今年はめぼしい作品がなかったので「寅さん」を観た(失礼)。「男はつらいよ50 お帰り寅さん」である。寅さんは嫌いではない。好きだ、というより面白い。

今作はシリーズの50本目、葛飾柴又の実家(元 団子屋)で顔をそろえた皆さんもすっかり歳をとった。もちろん寅さんも、“おいちゃん・おばちゃん”も、裏の印刷所のタコ社長もすでに鬼籍に入っている。今作の主人公は満男(吉岡秀隆)で、今は立派に成長して小説家だ。妻は7年前に亡くなり中学生の一人娘がいる。実家には実年齢を顔に刻んだ満男の母さくら(倍賞千恵子)と父・博(前田吟)が住んでいる。満男の妻の七回忌の折りに集まった彼らが寅さんをめぐる思い出話に花を咲かせる。懐かしの寅さん、惚れて振られた女性たちの有名女優がわんさと出てくる。

見どころは、今は神田のバーのママになっているリリー(浅丘ルリ子)が語る“初耳”の思い出話だ。さくらに聞かれて寅さんと結婚してもいいと答え、さくらがそれを寅さんに伝えた。寅さんが、リリーに、ウソだろ?冗談だよな?とあの顔で戸惑いながら聞き、リリーが冗談よと笑っておしまいになってしまう。もう1つは、満男が高校時代の恋人で今は海外で仕事をしている彼女と再会し、幼かった愛を確かめて羽田の別れ際に抱擁し、余韻を残して別れるラストシーンだ。

寅さんが国民的に好かれる“共通項”は山田洋次監督が仕掛けたワナで、破天荒で、変り者で、自由奔放で、温かくて、優しい人柄だ。それに加えて、四角な顔にあの服装。商いの鞄1つで旅に出るたびにいい女に惚れ、必ず振られる。そのたびに、おいちゃんには「ばかだなー」と嘆かれ、観客も「ばかだなー」と少し軽蔑して笑いながら、気のいい虎さんに哀れを催して感情移入する。

寅さんの性格については、こんなことも言えそうだ。明朗だが気が弱い。根気がない。気まぐれだ。かっこうを付けたがる。根は子供っぽい。ホラ吹きのケがある。勝手な理屈をこねる。聞いた風なことをぬかす。すぐ熱くなる。勝手に思い込む。すぐ落ち込む。すぐ忘れる。根に持たない。お天気屋である。バカ騒ぎが好きだ。人情に弱い。言行不一致だ。風を読めないー。

こうして並べてみると、まるで落語に出てくる長屋の八つぁん熊さんではないか。最も愛される古典的なキャラクターでもあり、典型的な日本人のDNAでもありそうだ。そして、こういう素朴な日本人が少なくなって世の中がギスギスしてきた今の時代が、郷愁の寅さんを歓迎するのではないだろうか。(2020・2・4 山崎義雄)