ババン時評 誰も憲法の内容など知らぬ?

テレビ(1・18)を漫然と眺めていたら、歴史ものの番組で、昭和22年の大日本帝国憲法が発布された日の国民的な祝いの模様が紹介されていた。電飾や奉祝門や提灯行列などの祝賀模様が劇画タッチの画像でも見られた。

当時この情景を実際に見たお雇い外国人でドイツ人のベルツ博士の感想は、「日本の庶民は憲法公布でお祭り騒ぎをやっているが、だれも憲法の内容など知らぬのだ」と言うもの。西洋化の憲法制定を単純に喜ぶ日本人の陽気さを複雑な思いで見たのかもしれない。

この帝国憲法は、一度の改正もなされずに約半世紀を経て戦後の昭和22年に現行の日本国憲法となり、さらに70数年を経て今、安倍首相が改正に意欲を燃やしている。自民党はこの1月から、憲法改正の実現に向けてポスター、ホームページ、公開講座で本格的なPR作戦を展開する。

初のポスターのキャッチフレーズは、「憲法改正の主役は、あなたです」というもの。国民の反応はどうだろうか。真面目にポスターを見た人の中には、エ、俺が?、私が?、憲法改正の主役?と戸惑う人も少なくないのではないか。多くの国民にとって憲法理解はたやすいものではない。ベルツ博士が生きていたならまた「誰も憲法の内容など知らぬのだ」と言われかねない現状がある。

ホームページでは特に若い人を中心に憲法改正の趣旨を分かりやすく伝えて、改正ムードを盛り上げたいというが、趣旨説明やムード作りでは、肝心の条文解釈と判断のレベルには踏み込めない。安倍首相や自民党の目指す改正ポイントは4つあるが、本命は第9条の改正だ。

第9条の改正の狙いは、自衛隊の存在理由を明記したいというところにある。理由は、憲法違反の継子扱いでは自衛隊員がかわいそうだから、と言うもの。しかし今、自衛隊の存在を否定的に見る国民や、自衛隊員をかわいそうだと思う国民はまずいないだろう。

安全保障上の対応は15年成立の安保関連法で強化されている。憲法9条改正による安全保障上の“実利”は何もない。安倍首相の任期中に憲法改正を急ぐ必要もない。国民の憲法判断が肝心の条文解釈と判断のレベルに進むまで、憲法改正の実現に向けての中身のあるPR作戦を地道に進めるべきではないか。(2020・1・19 山崎義雄)