ババン時評 現場人間軽視の不正防止策

またまたわが国を代表する2つの大企業で、不正検査による製品出荷が露見した。1つは三菱電機の不正検査、いま1つは日立金属による検査データの改ざんである。企業のどこが緩んでいたのかたるんでいたのか、似たようなケースだがどちらも長年にわたる不正検査で根の深い実に情けない事件である。

三菱電機では、今後、品質保証体制を整え、検査結果は手で入力すると不正が起きるので、自動で入力するITシステムを導入する。新設の社長直轄の「品質改革推進本部」には、出荷停止もできる強い権限を与える。同本部担当の「最高品質責任者」には社外から執行役を迎える。ガバナンス(企業統治)の改革や、取締役の過半数社外取締役にするという。

日立金属では、弁護士らによる特別調査委員会の報告書が今年1月に公表され、「自社の技術力や製品に対する過剰な自負と品質コンプライアンス(法令順守)への意識が稀薄だった」と指摘された。今後は、外部専門家の参加する「品質コンプライアンス委員会」で社員教育を進めるとともに、今後3年で100億円規模の予算で検査の自動化と管理システムの整備を進めるという。

総じて両社は、組織・制度の改革に力を入れる構えだが、本当にそれでいいのだろうかという疑問が生ずる。その疑問に答える一つのヒントが、読売新聞(10・16)取材による〈社員の証言から見る三菱電機社員の言葉〉である。彼らはこう言っている。

▽管理職の機能不全について:①部長と課長は忙しすぎてメールも資料も見ていない(長崎従業員)、②課長は会議をしている人で、現場の話をする人ではない(長崎従業員)。▽責任感の欠如について:①規格との不整合の是正は(自分が所属していない)技術職の仕事だ(可児品質担当管理職)、②言ったもん負けの文化がある。改善を提案すると、取りまとめになり仕事が増える(長崎従業員)。▽本社と現場の断絶について:通報しても本社から支援等を受けられず自分たちの負担が増える(可児従業員)。日立金属でも、おそらく同様の実態があると思われる。

以上のような現場の声の中にこそ、企業における不正防止という難問のための最も大事な解があるのではないか。重要な課題として、不正防止のためには「現場の人間」と「コミュニケーション」という「人間力」向上の方策を探る必要があるのではないか。現場の人間より組織・制度の改革に力点を置いた不正防止対策で良いのか。今一度、再考すべきではないだろうか。(2021・11・5 山崎義雄)