ババン時評 「時代の風」を読む統率者

優れた統率者は「時代の風」に敏感だ。先ごろ、101歳で昨年11月に亡くなった中曽根康弘元首相の内閣・自民党合同葬が行われた。中曽根さんは若いころの国会における勇ましさで「青年将校」と言われ、後には政界遊泳術の巧みさで?政界の「風見鶏」と言われた。

孫の中曽根康隆衆議院議員は、「祖父は小派閥を率いる中で『風見鶏』だと批判を受けていましたが、総理になるには『風を読むこと』が必要であることも、よく理解しており、徳富蘇峰の『大局さえ見失わなければ大いに妥協してよい』がモットーでした」と語っている。

実業界では、日本電気の元社長、会長の小林宏冶さんも「経営者は時代の風を読まなければダメだ」と言った。ある会合での挨拶で、オレは「時代の風を肩で知る」と言ったのに某紙の記者に「時代の風を肩で切る」と書かれたとボヤいて笑いを取ったことがある。小林さんは「コンピュータと通信の融合」へと社業を大転換、大躍進させて同社「中興の祖」といわれた。

「経営の神様」と言われた松下電器産業松下幸之助さんは、「先見性を持てない人は指導者としての資格がない」と言った。松下さんの「先見性」は随所で示されているが、社運をかけたオランダ・フィリップス社との提携(1952・昭和27年)の一事でも証明される。

松下さんの「先見性」は「ひらめき」だといわれるが、その「ひらめき」が科学的手法による分析結果と合致していれば、だいたい間違いないのだという(PHP総研『衆知』)。つまり、経営上の豊富な知見を基にした松下さんの「ひらめき」が、市場調査などの科学的手法によって検証され、目的を「確信」するにいたるのだ。

中曽根さんの場合はさらに一歩進んで、学者など多くのブレーンによる調査研究報告などを自らの「先見性」の傍証として使い、目的遂行の「確信」を強めた。「戦略思考の強い中曽根さんは、意向に沿う報告書が出てくるように諮問機関を組み、側近を使って内容に介入し、最終的には自ら筆を入れた」(服部龍二 著 『高坂正尭中公新書)。実は、中曽根さんのために多くの報告書を書いた高坂正尭さんもこれでだいぶ参ったらしい。

政治家であれ経営者であれ、優れた統率者は「時代の風」に敏感であり、その先に目指すべき「方向感覚」があり、そこに至る「構想力」を持っている。余計な一言を付け加えれば、多くの陣笠先生が「国民の目線で」「国民の意見に耳を傾ける」レベルにとどまっている(ように見える)のは情けない。(2020・10・28 山崎義雄)