ババン時評 横綱の「勝負」と「品格」

名古屋場所で優勝した照ノ富士が見事、横綱に昇進した。伝達式で照ノ富士は「不動心を心掛け、横綱の品格、力量の向上に努めます」と口上を述べた。「横綱の品格」が重く感じられ、先輩白鳳のようにはならないという決意にすら聞こえた。NHN大相撲中継の解説者・北の富士氏は、白鳳の優勝について感想を聞かれ、「あきれて物が言えんな」と言ったという。

互いに無敗で臨んだ白鳳対照ノ富士の千秋楽決戦では、白鳳の取り口によって実に後味の悪い一番となった。仕切りでは両者が立ったまま長いこと睨み合った。立ち合いでは白鳳が得意の張り手に出た。左手による張り手は目くらましで、右腕は立った瞬間から肘打ちの構えで照ノ富士のあごを狙っていた。隠し鉄砲とでもいうべき品位を欠く作戦だ。

それで思い出したのが、数年前(2017・12)に「ネットエッセイ」として発表した『「勝負」と「品格」の勝負』だ。内容は素人の相撲批判だ。その冒頭に私が家元(弟子なし)の“めけり川柳”の駄句、「鋭すぎ飛び出しめけり日馬富士」「白鳳は独善傲岸極めけり」の2句だ。

事件は、モンゴル出身力士らのプライベートな飲み会で起きた。白鳳の(しつこい)説教をまじめに聞いていないということで、日馬富士が、可愛がっていた貴ノ岩を殴った。調査委員会までできて大騒ぎになったが、結果は、白鳳はおかまいなしで、後に日馬富士は釈明することもなく引責辞任を表明して引退した。

この場所で優勝した白鳳は、土俵の上で「日馬富士関と貴ノ岩関を土俵に上げてあげたい」とトンでもない発言をした上に、あろうことか観客を促して万歳三唱をさせた。千秋楽を祝って、ついでに自分の優勝を祝ったのだろうが、付き合わされて苦い思いをした観客も多かっただろう。

このころは貴乃花の去就も時の話題で、ある相撲の“専門家”は、「貴乃花には貴乃花の相撲観があるが白鵬には白鵬の相撲観がある」と言った。それはどうか。白鳳がどんな相撲観を持っているのか知らないが、問題は白鵬の「勝負」重視か貴乃花の「品格」重視かだ、と私は思った。

「勝負」にこだわれば、結果はきれいな勝ちも汚い勝ちもあり得よう。「品格」にこだわれば、結果は品格のある勝ちか、品格を失わない負けになる。白鳳が名古屋場所で見せた、奇妙きてれつな土俵際に下がっての仕切り、しばしば見せる鬼の形相のガッツポーズ、土俵を割った相手の胸に見舞う一突きなど、どんな「相撲勘」から生じるのか知らないが、勝っても負けても「品格」のある横綱相撲を見たいものだ。今は照ノ富士の精進に期待するしかない。(2021・7・24 山崎義雄)