ババン時評 傍若無人の白鳳が親方に

突然伝えられた横綱白鳳の引退は世間の耳目を驚かせた。日本相撲協会の審査委員会では、白鳳の年寄(間垣)襲名について、品性を欠いた荒っぽい取り口など、横綱としての目にあまる数々の問題行動が指摘された。そのあげく相撲道を順守する厳しい誓約書へのサインを条件に襲名を承認するという異例の決定となった。

しかし朝日新聞(10・1)は、記者会見での白鳳の気持ちを素直に伝える。「横綱になりたてのころは自分の理想の相撲、「後(ご)の先(せん)」を追い求めていました。最多優勝を更新してからはけがに泣き、自分の理想とする相撲ができなくなりました。横審の先生の言葉通りに直した時期もありましたし、それを守った場所もあったと思います。だけど、けががあり、理想とする相撲ができなくなったことは反省していますし、自分自身も残念に思っています」と―。

この白鳳の心情吐露?に符合するのが、落語家金原亭馬生氏の見方だ。読売新聞(10・1)で、2人の識者が見解を披歴する『白鳳「無敵」の功罪』で金原亭師匠は大要こう語っている。白鳳は極めてきれいな相撲を取った。しかし下り坂になった時、それをカバーする処世術を身につけた。立ち合いのしたたかさで、間合いをずらす巧みさは絶妙だった。

そして氏は、それでも白鳳は横綱だから勝たなければならない。喜怒哀楽を表に出して、世間がどう見るかさえも切り捨てて勝負に徹してきた。しかしそんな白鳳が親方になれば立派な指導者になると思うと言い、小兵の炎鳳を相撲界に誘い、大きい人に勝つ相撲を教え、小中学生の相撲大会を開いてきた功績を挙げる。

一方の識者、元横綱審議委員会委員長の守屋秀繁氏は、相撲協会とほぼ同じで白鳳に厳しい。特に、千秋楽の照ノ富士への左手で相手の顔を隠し、右肘のエルボーを見舞ったうえで、さらに大ぶりの張り手を乱発し、勝ってすごい形相をした。こうした乱暴な取組が白鳳の見納めとなったことが信じがたいという。そして白鳳の無敵の業績も「傍若無人の大記録」とする。その上で「今後、協会運営の一角に携わることになる親方・白鳳」に厳しい自覚を求めている。

白鳳が放った光と影は一概に論じきれないが、先の金原亭師匠は、相撲協会に1つの提言をしている。すなわち、土俵を割った相手への駄目押しやかち上げなど、相手を傷つける不快な技は禁じ手にする。ただし、立ち合いの変化や猫だましは体重無差別の相撲では必要な技だし面白い。白鳳引退の機を逃さず、今こそ相撲協会が規制改革に乗り出すチャンスではないかというのだ。一考に値する提言ではないか。(2021・10・2 山崎義雄)