ババン時評 トランプ氏のイラン攻撃中止

 

素直に賞賛していいのだろか。トランプ大統領が、米軍の無人偵察機を撃墜したイランに対する報復攻撃を、「10分前に中止」させたとアピールした。攻撃したらイラン側に何人の死傷者が出るかと関係将軍に聞いたら、約150人だとの答えに、人的被害ゼロの無人機の撃墜とは、つり合いが取れないと判断したという。

人道主義というよりも単純な商人感覚のゼロ対150のそろばん勘定か。軍事衝突に発展するよりも、制裁強化の圧力路線を継続するほうが得策だと判断したのも商人感覚だろう。それにしても無茶をしかねないトランプ大統領が直前に攻撃中止を指令したのは幸いだった。

もし攻撃が実施されたら、先に両国の仲裁役を買って出てイランに出向いた安倍首相も道化役を演じたことになり立場を失っていたことだろう。揚げ句に、日本も対イラン戦に応援しろとトランプ大統領に言われでもしたら目もあてられない仕儀となる。

アメリカは戦争の好きな国だ、と言うのは、憲法学者樋口陽一氏と小林節氏だ。樋口氏は護憲派の大御所。小林氏は自民党憲法改正草案づくりの初期に参加して改憲派と目されていたご仁。お二人の著書、「憲法改正の真実」(集英社新書)は、日本はアメリカにつくってもらった憲法9条(戦争放棄)のおかげでアメリカの戦争に付き合わずに済んだという。

さらに、アメリカが始めてまともに終わった戦争はないといい、ベトナムアフガニスタンイラクも結局動乱が拡大した。アメリカが勝った戦争はない。むやみに戦争をしたがるアメリカについていったら、新しい敵をつくるし、人も殺すし、テロによる報復の恐れも出るし、軍事費がかさんだ挙句、アメリカのように国家破産寸前の状態に追い込まれる、と言う。

今度のイラン攻撃中止でいちばん怖い教訓は、トランプ氏という個性の、気まぐれに近い10分前の指令で戦争が回避されたという事実である。逆の気まぐれも大いにあり得る。最近見た映画「空母いぶき」(この話は別に書いた)では、佐藤浩市扮する総理大臣が自衛権発動の決断に呻吟する。そして決断する。敵国連合とのし烈な戦闘は、国連による派遣艦隊の介入によって収束する。事態が収まった後に佐藤浩市総理大臣は、「あと3年(総理を)やってもいいかなー」と側近にもらす。現実の安倍首相は4選に気がある。トランプ大統領は再選を目指す。気を許せない日米関係が続く。(2019・6・26 山崎義雄)