ババン時評 コロナと三密と芸術界

やはり出た。東京・新宿の劇場感染である。この小さな劇場での濃厚接触によるコロナ感染は、主催者側のずさんな演出による演者と観客の“三密劇”によるものらしい。菅官房長官ならずとも、「コロナ問題は東京問題」だと言いたくなるような事例だ。

大阪では吉本興業が舞台を再開した。テレビでは演者全員がマスクを着けて喜劇を演じていた。少し前には、能舞台で6人ほどの地方(じかた)が全員白マスクで謡っているのをテレビで見た。古典芸能には黒衣(くろご)の伝統もある。せめて黒マスクか被り物の工夫をすべきではないか。幽玄の能世界にコロナ対策の白マスクは似合わない。

と、劇場を皮肉ったが、言いたいことは真逆である。劇場と三密は切っても切れない関係だ。劇場だけではない。密閉・密集・密着の三密は、舞台・映画・ライブ、美術展などの最も“望むところ”であり、三密実現のための客集めが芸術・美術界の生命線だ。

ところが今回のコロナでは、三密とは関係のない多くの芸術・美術催事まで中止に追い込まれた。交通機関など社会インフラへの三密回避要請によって、とんだトバッチリを受けた格好である。結果としてもともと経営力のない、体質の弱い芸術・美術界がコロナによって予想もしなかったダメージを受けることになった。

この先、多くの芸術・美術団体が、経営・運営の維持に苦しむことになる。構成員の減少・士気低下などによって活動の縮小を余儀なくされるかもしれない。場合によっては活動停止・解散などに追い込まれるケースも出てくることになる。

それなのに、である。前回も書いたように、政府は拡大するコロナ禍のもとで経済再開を決め、その目玉政策として観光旅行の復活を支援する「Go To 政策」を決定した。しかも最も三密の懸念される観光旅行を“目玉”に選んだのは理解に苦しむ。

言いたいのは、例えば集客ビジネスには舞台・映画・ライブ、美術展などもあるヨということだ。こうした文化事業の支援など一顧だにせず、目先の客寄せで観光旅行を推奨し資金援助するというのはタイミングの悪い近視眼的政策ではないか。(2020・7・19 山崎義雄)