ババン時評 総理は我慢が足りなかった

日本学術会議って何だ? 名前は聞いたことがあるが中身は知らない。そんな国民がけっこう多いのではないだろうか。この、一般にはあまり知られていなかった団体?が、慣例によって推薦した新会員6名の任命を、任命権者である菅首相が拒否したことで、にわかに世間の耳目を集めることになった。

これに、脳科学者の茂木健一郎さんがツイッターで「正直、普通に任命しておいた方が良かったのではないか」と言い、これは「菅総理対学者モンスター」の図で「官邸が相手にするモンスターとしては一番めんどくさい人たちを敵にした」と言っている。笑ってしまうほど真っ当なご意見だ。

菅総理は先に、政府が何かをやるという方向を決定したのに官僚がそれに反対するなら、その官僚には異動してもらう、という趣旨の発言をした。官僚の抵抗を許さないというのはいささか物騒ではないかと思っていたが、学術会議の推薦者6名の会員推挙を拒否するのはさらに物騒で官僚脅しの比ではない。

そもそも日本学術会議なるものは、昭和24年に設立された国の機関で、「わが国の科学者の内外に対する代表機関として、科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させることを目的とする」組織だ。

しかし今は、会員になることが学者のステータスになるとか、名誉欲を満たす場だなどと、いろいろ陰口もたたかれる存在になっていた。論理的な主張は学者の本旨だが、最近の例では元会長が公の場で安倍元首相を「うそつき」とか「バカ」とののしったなどと、低次元の言辞を弄する信じがたい人物たちもたむろしている。

だが今、菅内閣が始めた学術会議見直しと6名の任命拒否問題は、はっきり切り離して処理すべきだった。学術会議見直しは堂々たる政策課題だが、6名の問題は取るに足らない些末の問題だ。科学の発展に寄与すべき公的機関としての日本学術会議は、今あまり仕事をしていないようだから、設立趣旨に立ち返って仕事をする組織に更生させるべきだろう。

6名は、ほとんど安保関連法反対の学者だから菅総理が切りたいのはわかる。しかしかねてから標的と定めていたはずの学術会議の退治?改革?には時が必要だった。総理は気負いすぎて我慢が足りなかったのではないか。負けて勝つ。ここは学術会議問題を国民に認知させたことで良しとして、条件付きとかそれらしい理屈を構えて6名を追認すべきだったのではないか。(2020・10・13 山崎義雄)