ババン時評 モノも言い様でカドが立つ

モノも言い様でカドが立つというが、「生娘をシャブ漬けにしてやる」とは穏やかでない。まさにヤクザのセリフだが、マーケティングのプロだという牛丼チェーン「吉野家」の重役(当時)の言だから驚く。これは言い様を間違えたと撤回できるレベルの発言ではない。あまりにも露骨な女性蔑視だ。

発言の主、同社の常務だった伊東正明氏は、早稲田大が開いた社会人向けのマーケティング講座で「生娘をシャブ漬け戦略」として、「田舎から出てきた若い女の子を牛丼中毒にする」などと発言したという。「男」に高い飯をおごってもらえるようになれば、絶対に(牛丼を)食べない」とも。

おそらくは受けを狙った悪乗りの発言だろう。人気の牛丼チェーン店の重役で、販売戦略のプロとしては、間違っても口にしてはいけない毒気のある発言だろう。どんぶりで言えば、「毒気」か「悪気(わるぎ)」か知らないが、加えてはならない「添加物」をたっぷり加えた“どんぶり発言”である。

伊東氏は、ただちに同社をクビになったが、その理由は「人権・ジェンダー問題の観点から到底許容することのできない職務上著しく不適切な言動があったため」と説明された。「職務上著しく不適切な言動」は、女性蔑視にとどまらず、最も大事な顧客心理への配慮に欠けていた点にあろう。

それにしても舌禍事件は後を絶たない。以前、森喜朗・元オリ・パラ会長が「女性の入った委員会は話が長くなる」と言って、オリンピックを待たずに会長の座を追われた事件は記憶に新しい。あの件で、失言した側とこれを追求する側の対照的な「問題点」を見せたシーンが記者会見にあった。

若い記者が、男女差別的な発言をどう考えるかと質問して森氏に謝罪させた上で、そのような人が会長の座にあることをどう考えるか、と重ねて質問した。森氏がどう答えたか忘れたが、この「無礼な正論」に森氏はムカッと反応した。近時、舌禍事件の多さと共に、これを責める「正義漢ヅラ」の横行も目立つ。

森氏の発言については、会長職を追われるほど重い失言かどうかについて同情論も少なくなかった。女性蔑視で言えば、毒蝮三太夫の「ババア、まだ息してっか。長生きしろよ」などは最たるものだが、毒蝮の温かい人柄が認知されていて許される。なにしろ言われる「ババア」様たちが毒蝮フアンの中核なのだ。

「物も言いようで角が立つ」とは、さほどのことでなくても言葉遣いによって相手の感情をそこなうことがある、という教えだが、その教えと逆に、さほどのことでもない失言を厳しく叱責し過ぎることにも問題がある。失言と叱責にもバランスが必要だ。それがなければ世の中はますますトゲトゲしくなる。とはいえ先の伊東氏の失言・失職に同情を寄せる意見はないだろうが―。(2022・4・28 山崎義雄)