ババン時評 ロシア上空で反戦ビラを撒け?

これは笑えない笑い話だ。ロシアからリトアニア経由でロシアの飛び地・カリーニンググラード(バルト海沿岸)に物資を運ぶ鉄道に、リトアニアが規制を掛けると発表したら、ロシアが最初に抗議した言い分が国際法違反だというもの。国際法違反! ロシアがそれを言うか? ウクライナ侵攻にはじまる人道無視の暴挙などロシアの国際法違反を並べ立てればきりがない。国連憲章は、国際法の順守を謳っているが、常任理事国のロシアは国連憲章国際法も意に介さないのかと思っていたら、都合のいい時は持ち出して使うらしい。

笑い話?のついでに言えば、身内のおばあちゃんが、ロシアの空で反戦ビラを撒いたらどうかと言うので笑ったが、まてよ、と考えさせられた。いうまでもなく反戦ビラは、昔の戦争でやった敵国の国民や兵士などの戦意を喪失させようというもの。あの宣伝ビラの空中散布を、情報戦の現代でやろうというのだからナンセンスではある。しかし、相手は情報統制のロシアだからこそビラ情報散布の効果があるかもしれない。情報戦の現代だからこそ、その情報の拡散と伝播スピード、そしてその効果は先の大戦時の比ではないかもしれない―。

なによりも、情報封じで真実を知らないロシア国民に、そして相当知っていても口をつぐんでいる上層部や軍人などに、戦況や最新データを提供する意味は大きいだろう。さらに言えば、低空飛行でモスクワの上空に足しげく?ビラを運ぶドローンなどは、ビラだけではなく爆弾も運べるゾ、ということでけっこうロシアへの威嚇にもなろう。こう考えると、一見時代遅れのビラ播きが、戦争終結への機運、あるいはひょっとしてクーデターなどへの“動機づけ”にならないともかぎらない。

ところで現在、作戦指導のためとはいえ、米陸軍最強のグリーンベレー部隊がウクライナに派遣されているという。グリーンベレーは、コッポラ監督の「地獄の黙示録」やシルベスター・スタローン主演の「ランボー」はじめ映画やドラマでもおなじみの特殊部隊であり、敵地潜入や後方撹乱、ゲリラ戦を得意とする。たった1人で通常兵士200人の働きをするなどと言われ、ベトナム戦争アフガニスタン内戦など、世界各国の紛争地で活躍してきた。このグリーンベレーウクライナに派遣されているということは、すでにアメリカもウクライナ戦争への直接参戦に一歩踏み込んでいると言える。

ウクライナ戦争では長期戦も予想され、すでにウクライナ側が奪回を諦めた地域も出始めていると言われる。この先、安易な停戦協定でプーチンに勝ちを譲るようなことがあれば、人類にとって取り返しのつかない禍根を残すことになるのは明らかだ。ポスト・ロシアには後門の狼・中国が控えている。プーチンがチラつかせる核の使用は、事実上独裁者一人の判断に委ねられており、使うかどうか予測は困難だろうが、それへの対処は民主国家群の政治家の叡智と勇気ある決断にかかっている。米国には、アフガンのように、事を途中で投げ出す悪いクセがあるが、ウクライナだけはNATOと共に死守してもらいたいものだ。(2022・6・26 山崎義雄)