ババン時評 ガーシー元参院議員の不心得

泡沫的国会議員は他にもいなくはないだろうが、これだけずうずうしくあきれ果てた国会議員が出現したのは前代未聞だ。昨年7月の参院選で初当選以来、ただの一度も国会に顔を出さなかったガーシーこと東谷義和が、ついにこの3月15日、参院本会議における尾辻議長の「ガーシー君を除名する」との宣告で議員の身分を剥奪された。

その間、尾辻議長が登院を促す「招状」を出してもガーシー君はこれに応ぜず、参院懲罰委員会が「議場での陳謝」を求めても、いったんは了承しながら結局はこの軽い懲罰案も受け入れなかった。その間にガーシー君に支払われた歳費や期末手当は2000万円に上るという。これではクビになるのが当然でむしろ遅きに失したと思うのだが、ネットをのぞくと冷やかし半分も含めてクビは不当だとするガーシー応援の声が少なくない。

しかしガーシー君の除名に参院は「国会議員の身分は重い」として慎重を期した。国会法に基づく懲罰は、戒告に始まり、議場での陳謝、登院停止、そして除名と重くなり、除名には3分の2以上の賛成が必要との高いハードルがある。ガーシー君の除名決議には、旧NHK党の1票が反対に回っただけで他の与野党議員全票がガーシー君は国会議員にふさわしくないと判断して除名に賛成した。

ガーシー君は昨年2月に海外拠点でユーチューブチャンネルを開設し、「暴露系ユーチューバー」として名を挙げ、たった2か月でチャンネル登録者数を100万人超に伸ばして7月の参院選に出馬し、居眠りをしている議員を叩き起こすなどと主張して約28万8000票を獲得したのだという。にわか作りの即席代議士である。これで登院しないのでは居眠り議員を叩き起こすこともできないではないか。

こんなガーシー君の票集力を当てにして公認した旧NHK党そのものも相当に怪しいところがある。同党はガーシー君の除名処分について「参院はガーシー氏に票を入れた有権者に謝罪すべきだ」とか「少数派がいじめを受ける議会はおかしい」などと主張するが、とんでもない了見違いで、有権者参院に謝罪すべきは同党であり、反省すべきはガーシー君に票を入れた有権者であろう。

今回のガーシー除名事件は、ネットで名を売れば即席で代議士になれるというネット社会の弊害を見事に露呈した事案である。その背景には与野党を問わず長らく政治的潜在能力を評定することなく単に票集力のありそうなタレントや著名人を擁立してきた政界の悪習がある。そういう浅薄な風潮にSNSの浸透が拍車をかける。有権者はそんな政党の公約や候補者の正体を見抜く力をつけなければならないだろう。(2023・3・20 山崎義雄)