ババン時評 バレた日銀物価目標の欺瞞・2

黒田総裁の前任、白川方明総裁は緩やかな物価上昇は考えていたものの、安倍首相の2%目標には反対して辞任に追い込まれた。後を受けた黒田総裁は、「4月4日午前、コーヒー休憩後に再開した席で(読売新聞8・1)、2%の目標達成は『2年程度を念頭に置いている』と踏み込んだ」。岩田副総裁も呼応し、「15年も続いているデフレから脱却するには、2年程度で2%のインフレ(物価上昇)目標を達成しなければならない」と訴えた。

しかし、議事録からは複数の審議委員が大規模緩和を疑問視していた様子がうかがえる。佐藤健裕審議委員は「お金の量の調節でインフレ期待やインフレ率を中央銀行がコントロールできるかのような考え方には重大な誤解がある」と指摘し「ギャンブル性の強い政策となる」とした。結果的に見れば黒田氏は任期10年をかけて2%目標を達成できなかった。

先の読売は、報告書について、岩田元副総裁と疑義を唱えていた木内登英元審議委員にコメントを求めている。さわりの部分を引用すると、岩田氏は「我々が決めた異次元金融緩和は金融政策の転換点となった。画期的な内容で、物価上昇目標の2%は達成しなかったかもしれないが、デフレにはならなかった」と強がりにも聞こえる主張を行っている。

一方、木内氏は「物価上昇目標の2%に根拠はなかったし、高すぎるという考えは今も変わらない。最近は3%を超えているが、持続的に2%を達成できるかは見通せない」としている。木内氏の変わらぬ主張と今後の見通しは的を射ているのではないか。

そして黒田氏は、今年4月の退任を指呼の間に臨んだ昨年暮れ、それまでかたくなに守ってきた長期金利の上限0.25%を0.5%に引き上げると発表した。さては金融緩和にピリオドを打って金融引き締めに出るのかと思われたが、黒田氏は金融緩和路線に変更はないと言う。

そこで当欄「ババン時評 黒田日銀金融政策の変節なぜ」(12・24)では、次期総裁候補もすでに何人か下馬評に挙がっている段階であり、新総裁が黒田氏の金融緩和政策を踏襲してくれればいいが、引き締め政策に転換されれば自分の業績にキズが付く、メンツがつぶれると考えて、新総裁の新政策への軟着陸を考えたのではないかと低俗かつ単純に推測した。

そして今年4月、新総裁に就任した植田和男氏は、大規模な金融緩和策を引き継ぐことを明言しながらもわずか3か月後の7月には、長期金利の上限を1.0%に引き上げた。これは実質、黒田日銀10年の金融緩和政策からの「出口」に向かう動きではないか。そしてアベノミクス政策の片棒を担がされてきた日銀が、ようやく独自性のある金融政策に取り組む姿勢を示し始めたように見える。(2023・8・12 山崎義雄)