ババン時評 中国の汚染水発言こそ汚染発言

東電福島原発の処理水放出について、中国では政府から国民まで国を挙げての反対運動と嫌がらせが続いている。日本の処理水は「核汚染水」であり、海洋放出すべきではないとする中国当局の主張に踊らされて、SNS上ではまったく科学的根拠を無視した言い分やニセ動画が拡散し、日本のいろいろな施設への投石などいやがらせ実力行使で目に余るニュースが続いている。こうした理不尽な動きは日中関係の悪化を招くだけで、冷静に考えれば中国にとって何の益もない所業だと思うが、習近平政権の政治的意図は何なのか、理解に苦しむばかりある。

中国は日本における処理水放出日(8月24日)の決定に強く反発した。中国外務省は記者会見で「公然と核汚染のリスクを全世界に転嫁するものだ」と述べた上で「海洋環境と食品安全、人々の健康を守るため必要なあらゆる措置を取る」と表明したという。この言葉は中国にそっくりお返ししなければならないだろう。中国原発の処理水は、東電の年間処理水の海洋放出予定量に比べ約6・5倍の放射線トリチュウムを含んでいるといわれる。

東電福島原発事故から10数年、処理水の処分方法で議論が続いたのは、処理水に含まれるトリチウムが人体や海洋環境などに及ぼす被害が心配されたためだ。しかし、このほどトリチュウム濃度は問題のないレベルに減少しているというIAEA(国際原子力機構)の調査結果が出てようやく処理水の海洋排水開始が決定した。それまでの東電による科学的な検証や改善努力、そして海産物への影響、風評被害対策など日本側の努力は隠すところなく公表されてきた。そして実際の海洋排出時のトリチュウム濃度は中国のそれの約10分の1にとどまっている。

しかし中国は依然として東電の処理水を「核汚染水」と呼んでいる。IAEA報告の出る数カ月前には、中国外相がIAEAの事務局長と会談し、日ごろの国際ルール無視をタナに挙げて「IAEAの権威で国際社会の安全を守ってもらいたい」と申し入れている。そしていざ己に都合の悪いIAEA報告が出ればこれを完全無視する。「IAEAの権威」も自己都合でどうにでも使い分ける。こんな中国相手では科学的な事実に基づいて冷静に話し合うことなどできようはずもない。

このまま中国による一方的な嫌がらせが続くならば、いかに紳士的な日本といえども国内における対中感情の悪化は免れない。習政権の許しが出て中国の団体観光客が大挙して来日するという珍奇・不可解な現象と裏腹に日中両国民の間に摩擦が生じ、両国関係を悪化させる恐れが強い。その責任はどう見ても一方的に中国側にある。

まさに中国の言い分こそ不純で有害な“汚染発言”である。そしてその中国には正当な理屈が通用しない。東電の処理水の完了には30年ほどかかるという。日本としては、処理水の安全性について科学的・客観的なデータに基づいて世界に向けて情報発信を続け、国際社会の理解を深めることによって中国政府と国民に反省を求める以外に手の打ちようがないのではないか。(2023・9・1 山崎義雄)