ババン時評 医療過誤訴訟の厚い壁

はからずもある医療過誤訴訟に、支援する立場で深く関わる体験をした。その印象を一言で言えば世に言われていることではあるが、患者側にとって大病院の医療過誤を立証することがいかに難しいかということである。地裁から高裁へと2度の判決を得て、医療過誤訴訟の厚い壁をつくづくと思い知らされた。そのことをいずれ世のために書きたいと思うのだが、今回は、結審後に原告の1人、主力として裁判を戦った患者の夫が原告側代理人の弁護士に送ったメールの挨拶文をそのまま紹介する。

なお本件は、5度にわたって子宮頸癌の再発を繰り返してきた主婦(昭和48年生)が、本事案の手術を受けた結果、術中の直腸損傷から大量出血を招き、人工肛門造設に至ったものである。また、判決は2審ともに勝訴ではあったが賠償額はあまりにも少なく弁護士費用を賄うほどにも至らなかった。ここでは施術と裁判経過には触れず、固有名詞も伏せた形で原告の心情を紹介する。

○○法律事務所 弁護士 ○○先生 ○○先生 いつも大変お世話になっております。○子の退院準備と在宅医療等などに忙殺されお返事が遅くなり大変申し訳ありませんでした。役所の介護認定調査員の面談も終わり要介護5の認定を受けました。要介護5とは「介助無しに日常生活を送ることが出来ない、基本的に寝たきり状態」という一番重い認定を頂きました。 

決して喜べる結果では有りませんが医療機器や介護士の支援を一番受けられる認定なので甘んじて受け入れようと思っています。そして訪問医療と看護師、薬剤師が頻繁に訪れる環境になるので本人もストレスは有ると思いますが私的には安心でもあります。しかし○○病院とは縁が切れたわけでは無く定期的に外来診療は受ける予定です。

 裁判の結論については本当に辛く悔しい結果に終わりましたが、これ以上勝ち目が無いのも法律の素人でも理解出来ましたので、ここで立ち止まらず○子や家族一丸となって少しでも希望が持てる生活を模索していこうと覚悟を決めております。 

○○先生の「力及ばず大変心苦しい」とのコメントがございましたが、私から言わせて頂ければ、とんでもございません。5年にも渡る裁判で巨大な敵と一緒に戦って頂き感謝しかございません。また協力医の○○先生に於かれましても、忖度することなく全てご理解、分析された意見書の内容を今でも読み返すと涙が出るくらい有難いご判断に感謝しております。

最後までブラックボックスだった部分を明らかにすることが出来たなら○○医大を揺るがすほどの事件になったであろうと思い悔しい思いではあります。しかし先生がたには本当にご尽力頂きありがとうございました。 報酬金についても承知いたしました。(以下、事務手続きにつき2行削除)。○子 また私の人生や会社などでトラブルがありましたら、お力をお借りする事もあるかもしれません。その時はご相談させて頂きますので今後とも宜しくお願いいたします。 原告名○○。

以上が原告側の心情吐露である。抑制的ではあるが裁判の実態と患者側の無念な気持ちがよく伝わるので本人の了解を得て紹介することにした。(2023・10・25 山崎義雄)