ババン時評 人間抜きの「移入労働力」?

「労働力」は機械的なパワーではない。人間の肉体に内在するパワーだ。「労働力」の受け入れ拡大は、生身の「外国人」の受け入れ拡大だ。「移民政策」の是非を性急に問うつもりはないが、それにつながる外国人労働力の流入は、近い将来、「多民政策」で日本の国のかたちを変える方向に向かう大問題だ。

臨時国会が始まり、外国人労働力の受け入れ拡大に向けた入管法改正案が注目されている。立憲民主党枝野幸男代表は「これまで首相自身が否定してきた移民受け入れ政策への転換とどう違うのか」と質した。これに対して安倍首相は、「一定規模の外国人と家族を、期限を設けることなく受け入れて国家を維持しようという移民政策は採らない」と従来通りの答弁をした。

枝野氏は、外国人労働者のための、職場環境、日本語教育、住宅問題、社会保障などの課題をあげ、国民民主党玉木雄一郎代表は、外国人と共生できる社会づくりをあげたが、首相は移民政策への転換には当たらないと強調するだけで、受け入れ体制の具体案には一言も触れなかった。

10月30日の新聞各紙は、入管法改正を巡る論戦開始を報じる一方で、独メルケル首相の与党党首辞任表明を同時に伝えた。首相職は任期の21年まで続投するという。メルケル氏は反トランプで欧州をリードしてきたリベラルの旗手だ。

メルケル氏の国内的な人気低迷は、100万人超の難民を受け入れた「移民政策」が大きな原因だ。片や日本は、安倍首相の言うように「移民政策は採らない」と言いながら、移民受け入れに道を開きそうな「労働力」の移入拡大にカジを切った。それでも安倍首相は、受け入れるのは難民、移民ではない「労働力」だと強弁する。

なによりも、移入労働力の拡大でやってくるのは、体温を持たない無機質の「労働力」ではない。「労働力」を背負ってくるのは「人間」だ。そのことを考えて、受け入れ態勢も、移民政策との兼ね合いも、そして実質的な移民受け入れによる将来の国のかたちまで考えてもらいたい。(2018・11・2 山崎義雄)