ババン時評 教科書が教える領土問題

国と外務省が「尖閣諸島に領土権問題は存在しない」と言っているのだが、最近の中学校教科書では、その領土権問題を教えるようになっている。池上彰佐藤優著「人生で必要な教養は中学校教科書ですべて身につく」によると、中学校教科書に、こうあるという。

日本の領域は、第二次世界大戦後のサンフランシスコ平和条約によって、本州・北海道・九州・四国とその周辺の島々が認められたことに始まって、その後、奄美群島小笠原諸島、そして沖縄が日本に復帰して現在に至ったと説明。その上で、日本固有の領土であるにもかかわらず、その領有をめぐって隣国との間で課題がある地域もあるとして、ロシアと争う北方領土、韓国と争う竹島、中国が相手の尖閣諸島について書かれているという。

これについて佐藤さんは、例えば尖閣諸島については「領土問題は存在しない」というのが政府の公式見解だから、「無視」するのが正しいことになるのではないかと言い、池上さんは、教科書にこう載せると「領土問題はある」と認めることになってしまう。難しいところだが、中国が言ってくれば事実関係を説明せざるを得ない、と言っている。

おっしゃる通りで、中国の勝手な言い分には強く反応し、言うべきことを言うべきだ。先に来日した中国・王毅外相は、「日本の漁船が釣魚島(尖閣諸島)のデリケートな海域に侵入している。中国はそれに対して適切に対応し、中国の主権を守っていく」と手前勝手な発言をした。

この王発言に即座に反応しなかった(と誤解された)茂木外相のフェイスブックはたちまち炎上した。いわく「茂木外相は三島(由紀夫)が予言した腑抜けな日本の象徴だ」「一体どこの国の大臣?」「王毅外相に言われたい放題」など辛辣だったとネットにある。一方、中国のネットでは王外相は英雄扱いで「われらが王毅、よくやった」「中国の外交勝利だ」「日本は釣魚島が中国の領土だということを黙認したぞ」「王毅は中国の立場を明確にさせた」といった声に溢れたという。

ともあれ、我々中高年世代が学ばなかった領土問題が教科書に載っていることは喜ばしいが、一般国民の歴史認識は中国国民のレベルには遠く及ばないだろう。中国国民やネット世代の若者をこうまで洗脳したのは徹底した自国主義歴史教育にあることを思えば、日本の歴史教育はまだ甘い。根本的に本当の歴史と現実を教え直さなければならないのではないか。(2020・12・9山崎義雄)