ババン時評 ネット依存の夫 極論ばかり

この題名は、読売「人生案内」(8・24)の「ネット依存の夫 極論ばかり」(栃木・D子)から拝借したもの。相談者は50代のパート女性。同年代の夫がネット依存になり、コロナで在宅勤務になったが極論ばかり言うので困っているという。単身赴任中の夫が、一人でネットを見る時間が増えた結果、国際情勢や政治について批判的な極論を鵜呑みにするようになったらしい。

家族と過ごす時間なのに特定の国々の批判ばかりで、産品や製品にまで文句をつける。国際情勢や政治に興味を持つことは大事だと思うが、夫の意見はあまりにも偏っていて私(相談者)も嫌な気持ちになり、子どもたちも父親を避けるようになった。どうしたら優しい夫を取り戻せるか、心療内科を受診するのはどうでしょうかという相談だ。

回答者は山田昌弘さん(大学教授)。まずは『極論というか「差別意識」が強い人がそばにいるのは嫌ですね』と優しく語りかける。そして、相談者の夫は価値観の相違で片付けられないレベルではないか。極論を信じている人を論理的に説得することは難しい。極端な思想の裏には自分が社会の中で認めてもらえないという感覚がある。今はネットで仲間を作りやすく意見の違う人を「間違っている」と主張することで自分のプライドを保つ人が多いと指摘。

その上で回答者は相談者に解決策を示すのだが、まずは「自己肯定感の低い人と一緒に生活するのは、それだけで消耗します」と言い、「遠ざかって関係を絶てばいいのですが、家族だとそうはいかないですね」と同情を寄せる。そして、家族に対して実害がなく、犯罪につながりそうな書き込みなどをしていないなら、しばらく放置するのが良いだろう、と助言する。

さらに、御夫君と論争をせず受け流す。そのうち仕事などで肯定感を取り戻せれば、治まってくると思う。サポートするとしたら、思想以外のところを褒めることが有効かもしれない。心療内科などを勧めるのは逆効果。やめた方がいい、と締める。この回答は、言ってみればしばらく我慢してみなさいというアドバイスである。そのあたりが回答の限界だろう。

 インターネットの弊害はいろいろと指摘されるが、最たるものは、社会的には偽情報の流布であり、無記名による誹謗中傷の流布だろう。攻撃的な極論も多い。家庭的には本人の健康問題や家族関係の悪化だろう。注意したり止めさせようとして暴言・暴力を誘発することもある。

 この人生相談のネット依存氏は家庭内での内弁慶的論者だが、社会的にも街角インタビューなどで国際情勢や政治問題でも堂々と意見を披歴する人が増えてきた。そして、ネット時代の恐ろしさは、思索と反芻(繰り返し考える反芻)の伴わない短い言葉による断言・極論の危険性について、多くの人々が考えなくなっていることではないか。(2021・8・27 山崎義雄)