ババン時評 医療ミスと医療界のヤミ

医療ミスを巡る患者と病院のトラブルはしばしば裁判にまで及ぶケースがある。しかし一般的に病院側は医療ミスを認めたがらず、医学知識のない患者側が医療ミスを立証することは容易ではない。そこで、医療事故を調査して再発防止に生かす目的で「医療事故調査制度」が2016年に始まった。ところがこの制度の活用が低迷しているという(読売新聞12・1)。

問題は、制度の発足時から指摘されていたというが、医療事故の疑いありとして調査するかどうかを判断するのが病院側だということだ。つまり、ある医療結果が、制度が対象とする「医療に起因する予期せぬ死亡や死産」に該当するかどうかについて、病院側が、それは正当な医療行為の結果であり医療ミスではないと判断すれば、制度に基づいて第三者機関に報告し、調査に進むことはない。

医療改革に前向きの病院対応も近年、増えてきてはいるようだが、いまだに巧妙な「防衛医療」で医療トラブルの回避ないし隠蔽を図る病院が少なくない。こうなると患者側が抗議しても病院側が真摯に患者側の疑問に対応することはない。やむなく患者側が訴訟に踏み切っても、専門家ではない患者側が医療ミスを医学的に追及・立証することは容易でない。

当然、医療機関側に大きな問題がある。医師は患者の治療に当たっては、①実施する医療行為について、その必要性と、予測される危険性などについて十分な説明と患者の理解並びに同意を得ること、②医療行為のすべての経過を記録にとどめて随時患者の求めに応じて開示し理解と納得を得ること、といった基本的な基準すら守らない病院が未だに存在する。

現実には、一流の医療水準にあるべきはずの大学病院ですら、①では、フォーマット化された「同意書」記載をもって説明に替えるとか、②では、カルテなど診療記録の作成・保管が杜撰であったり、カルテなどの開示請求があれば有料で受けるが、その際も病院側にとって不都合な記録は改ざんを加えるとか開示しないなどの事例も少なくないとされる。

また、あってはならないことだが、患者のためのより良い治療目的だけではなく、クレーマー的な患者や裁判などで賠償責任を問われないための同意書やカルテの書き方を病院側が工夫するという、いわゆる「医療防衛」の研究もなされている。

まだまだ医療界の闇は深い。冒頭の制度制定以来6年が経つ「医療事故調査制度」は、せめて医療機関と同等に患者側が「医療事故の疑いあり」として調査を求められるように制度改革を行い、医療行為の透明化と医療事故の再発防止に役立てるべきではないか。(2021・12・6 山崎義雄)